短編そのた | ナノ


▼ 休憩時間


今日はやけに太陽が眩しい。

中庭にある大きな木にもたれ掛かり、俺は空を見上げた。

「あっついなあ〜」

今は剣の稽古の休憩中。

主であるカズマ殿下は、国王陛下に呼ばれて、一時的に不在だ。


いつもつるんでいる仲の良い友人も、今日は門番に当たっているから、いない。

だから今俺は、なんとなく一人で体を休めているのだった。


太陽はきつく照りつけているけれど、木陰にいれば風が涼しい。

疲れもあいまって、目を閉じていれば立ったままで眠ってしまえそうだった。



その時。

「あの、今は休憩中ですか?」

むさ苦しいこの場には不似合いな、可愛らしい声がして、俺は後ろを振り返る。


「あっ!リン様!はいっ、休憩中です」

カズマ殿下のお妃であるリン様が立っていたから、俺は思わず背筋を伸ばした。


「ちょうどよかったです。冷たいものを作ってきたので、よかったらみなさんでどうぞ」

リン様は、にこりと笑って俺に籠を差し出した。

中には人数分と思われる綺麗なゼリーが入っていて、氷で冷やされている。

リン様は時々こうして、稽古中の兵士たちに差し入れを持ってきてくれるのだった。


「ありがとうございます!うわあ、うまそうです!」


すると、周りの兵士たちもリン様の姿に気付き集まってきた。

「お妃様だぞ!」
「差し入れをくださるそうだ!」
「おいみんな来い!お妃様がお見えだぞ!」
「差し入れのお礼を申し上げろ!」
「はい!」
「今すぐ参ります!」
「おいお妃様だぞー!」

さっきまでの緩みきった空気はどこへやら。みんな目をきらきらさせながら走ってくる。


「えっ!あっ、あの、そんな…気にせず休憩してください!」

リン様はわらわらと集まってきた兵士たちに慌てている。

だけど兵士たちは、カズマ殿下不在の今がチャンスとばかりに、嬉しそうにリン様を取り囲んだ。

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