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この公園を歩くのは、久しぶりだ。
小学生の頃、私が『神隠し』に遭った公園。
森も道も池もあるこの公園が、私は大好きで、しょっちゅう友達と遊びに来ていた。
だけどある日、誰も遊んでくれなくて、私は一人でこの公園に来た。
せっかくだからいつも行かないところへ行こうと思い立ち、少し木々の深い森へ足を向けた。
気付けば、舗装された道が獣道になっていて、遠くに見えていたビルやデパートは見えなくなっていた。
見渡す限り、森しかない。
振り返っても、森しかなくて、帰り道がわからない。
おあつらえむきに、そばに切り株があったので、私はそこに座り、考えた。
進めば森を抜けられるだろうか、それとも戻ってみるべきだろうか。
不思議と、怖さは感じなくて、だけど、帰らなければ母が心配するだろう、と思っていた。
すると、
「あれ、きみ、越えて来ちゃったのかい?」
頭上から、柔らかい声がした。
声のした方を見上げる。
大きな木の枝にまたがるようにして、若い男の人がこちらを見ていた。
ぶかぶかのシャツとズボンらしきものを身につけ、長くもないのに後ろ頭の真ん中あたりの髪を、変な紐で結んでいる。
私の周りの人たちとは『違う』ひとだと、なんとなく直感した。
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