ストックホルム・シンドローム | ナノ

p.1

※警告※
この作品は『ヤンデレ彼氏-監禁編-』の黒い妄想、"ifストーリー"です。続編のように見えますが一切繋がりはありません。また、鬱ネタ注意です。苦手な方は速やかにBackしてください。

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「美羽、遅くなってごめん。講義の後、教授に呼ばれてね……―――って、僕の声なんか聞こえてないかな」

 無垢な肌を無防備に晒し、ぐったりとした彼女が足元で横たわっている。
 ベッドの脚に巻き付けられたリードは彼女の白く細い首に嵌められた、真っ赤な首輪へと繋がっている。
 ほんの少し開いた唇はカサつき、彼女の頭上に転がったペットボトルを拾い上げた。

「今日は水も飲まなかったの、美羽?」

 ここ数日、美羽の様子が少し変わった。
 以前は僕の目を見る度に何か懇願するように瞳を潤ませていたのに。今ではこの通り、僕の目すら見てくれない。

 従順に従えば僕から解放されると思っているの?
 それとも、ようやく僕を受け入れる気になったのかな。

 美羽のご両親には長い事嘘をつかせてしまっているし、そろそろ後期授業の始まった大学にも行かせてあげないといけない。
 彼女には酷いことばかりしていると思うけど、僕はただ、すべて美羽のために…………。


「……ん……」

 ぼんやりと目を覚ました彼女の頬を手のひらで包む。
 血の気が窺えることにホッと胸を撫で下ろす。

「おはよう。美羽はお寝坊さんだね、よく眠れた?」

「湊、くん……? 私、いつの間にか寝ちゃって……」

「うん。僕、大学へ行って帰ってきたところだよ。もうすぐ夜になる。昨夜激しくし過ぎちゃったかな……疲れが溜まってたのかもしれないね。今夜は控えるよ」

 違う……僕は彼女を抱く時、どんなに激しく甚振っても身体に傷をつけるようなヘマはしない。
 僕のせいで彼女は弱ってしまったんだ。
 どうしたら食事をしてくれるのか色々工夫はしているのだけど……従順な態度とは打って変わって、頑なに拒み続けるから困り果てている。

「ねぇ、食べたい物はない? 何でもいいよ。美羽の好きな駅前のケーキなんてどう? 並ぶのはちょっと恥ずかしいけど、美羽、甘いもの好きだもんね。たくさん買ってきてあげるよ」

 ゆっくりと起き上がった彼女の前髪を指先で優しく梳かし、立ち上がる。
 くるりと背を向けようとするが、袖を引っ張られて彼女の前に崩れ込んだ。
 痩せ細った彼女にまだこんなにも強い力が残っていたのかと驚かされた。彼女の脚を下敷きにしてしまったのだが、退こうにも彼女は僕の腕を掴んで離そうとしない。

「……行かないで」

「美羽?」

「どこにも行かないで……一人にしないで……」

 え……甘え、られてる……?
 以前の美羽も、こんなに素直な子だったかな……。
 あれ……どうしてだろう。
 美羽のことなら誰よりも知っているはずの僕が……彼女のことを、よく、思い出せない。

「何言ってるの。僕は美羽を置いてどこにも行かない」

「嘘……ケーキ屋さん、行こうとした……」

「それは、美羽に少しでも食事を―――」

 彼女が突然胸の中に飛び込んでくる。
 小動物のように僕の胸に顔をすり寄せて、震える手でぎゅっと服を掴んでいる。

「美羽、どうしたの。怖い夢でも見た? 大丈夫、分かったよ。ずっとここにいるから怖がらないで」

「……本当?」

「うん、約束。今夜はこのまま抱きしめていてあげるよ」

「嬉しい」

 背中に腕を回し子供をあやすようにそっとさすってあげると、彼女は顔を上げて健気な微笑みを浮かべた。
 こんな風に美羽が僕だけを見て、僕だけに笑いかけて、僕だけに依存してくれたら……そう願っていたのは僕なのに。なぜか、心が痛む。

 喉の奥に不快な違和感がしつこく付きまとっているみたいだ。 
 同時に、胸の中でどす黒い血が渦巻いてひどく彼女に執心し、狂った感情が理性までをも飲み込んでいく。
 ―――蝕んでいく。

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