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「トリックオアトリート!!」
今日はこの小さな街中がハロウィンの装飾に包まれ、お菓子を貰って回る子供たちの声で賑わいでいる。
あまり料理が得意ではない私もこの日ばかりはバスケットいっぱいのバタークッキーを焼いて訪ねてくる子供たちへ振る舞っていた。
「次はアンナの家だ! おいっ、お菓子くれなきゃイタズラするぞ!!」
近所に住むヤンチャな男の子のコリンの声が聞こえたと思えばノックもせずにドアが開かれ、勢い良く飛び込んでくるその姿があった。
「お菓子ならちゃんとあるわ、ほら」
「うわっ、すっげー! アンナ、料理はヘタクソなのにな!!」
「しっ、失礼ね! もう、たくさん焼いたから好きなだけ取っていいわよ。まだまだあるから遠慮しないで」
焼き立ての良い香りがするバスケットを差し出すと、コリンも目を輝かせて鼻をすんすん鳴らす。
……と、開けっ放しだったドアの方から低い声が飛んできた。
「―――俺の分はないのか?」
驚いて落としそうになるバスケットをコリンが慌ててキャッチする。
「っ……、ジャック!?」
「よう、アンナ」
つかつかと上がり込んでコリンの持つバスケットからクッキーを一枚つまみ口の中に放り入れ、親指をぺろりと舐める。
彼は自分が甘党ではないことを忘れていたのか、げんなりした表情を浮かべた。
「あっま……」
「あぁっ、オレのクッキー! おいジャック、オレがもらったんだぞ! 返せ!!」
「あぁん? 相変わらずうるせぇな、チビ。ケチな男はモテないぜ?」
「オ、オレはチビじゃないぞ! オマエが怪物のようにでかいだけだ……だいたいアンナもこんなげすい男のどこがいいんだ、オレがあと十年早く生まれてたら……ぶつぶつ……」
「おう、なんだ、悔しいのか。生意気なくせに可愛いところもあるじゃねぇか」
ジャックは笑いながらコリンの頭をわしゃわしゃと乱雑に撫でる。
迷惑そうに拗ねるコリンもまんざらではなさそうで、まるで兄弟のような微笑ましい二人のやり取りに顔が綻んだ。
「そういや、さっき隣の婆さん家で美味そうなカップケーキ焼いてたな。早く行かねぇと他のガキに全部盗られちまうかもなぁ」
「なっ……、なんだと!? アンナ、またな!!」
「あっ!?」
コリンは慌てて飛び出していく。
「……コリンったら、バスケットごと持って行っちゃった」
「あぁいうところがまだまだガキなんだよな」
おかしそうに笑うジャックを横目に肝心なことを思い出す。
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