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注:この作品は、短編小説『官能遊戯』の続編です。前作を先にお楽しみ頂くことをお薦めします。「えっ……、担当替え!?」
驚きの声を上げた私に、編集長はあっさりと頷いて告げた。
「すまないねぇ。今の連載を終えるまで恭也先生の編集は理紗君に任せるつもりだったんだが、知っての通り編集部から急遽欠員が出てしまっただろう? 今すぐ替えざるを得ない状況なんだ」
つまり、先日の人事異動で編集部から営業部へ異動となった先輩の穴を私に埋めろと言っているのだ。
突然の出来事に困惑を隠せずにいると、編集長がポンと肩を叩いた。
「まぁほら、君もだいぶ敏腕編集者になってきたじゃないか。恭也先生の連載も予想以上の大ヒットだ。そろそろ大御所先生の担当を任せるには良い機会だと思うがな」
「そ、それはとても光栄なお話ですが……」
「とにかく決まったことだ、よろしく頼んだぞ。早めに引継ぎをしてくれ」
「……はい」
若い女性をターゲットにした恭也さんの小説は、甘い恋愛と濃厚な官能シーンが見事に読者を魅了し相変わらず圧倒的な好評を博している。
……が、その裏で私が彼のために一肌”脱いで”いるだなんて当然誰も知る由もなく。続く恭也さんの連載は、後輩が担当することに決まってしまった。
◇◆◇◆◇◆
「―――……そういうわけなんで、私は恭也さんの担当から外れることになりました」
電話越しに伝達する。
てっきり驚かれるものだと思っていたのに、返ってきた言葉は拍子抜けするほど淡々としたものだった。
『はぁ、そうですか。用件はそれだけですか? 忙しいので切りますよ』
「え!? 待っ……、」
プツッと電話の切れる音が鳴る。
「そうですかって、もっと他に言うことはないわけ!?」
思わず心の声が漏れこちらを振り返った周囲の視線を浴びて口を噤んだ。
でも、恭也さんと会うこともなければ変なことをされる心配もない……これで良かったのかもしれない。
「理紗先輩、引継ぎの件ですがぁ……」
モヤモヤする気持ちを抱えつつも新たに担当となった後輩に資料ファイルを手渡す。
受け取った彼女はどこか不安げな色を浮かべつつも、嬉しそうにはにかんだ。
「私、恭也先生の作品のファンなんですぅ! まさか担当になれるなんて夢みたいでっ」
「……あの人の担当なんて災難なだけなのに」
「え?」
ついキツい言葉がぽろっと零れ、慌てて笑顔で取り繕う。
「あっ、ううん、こっちの話。あなたも色々苦労させられると思うけど、頑張って」
「はい! 先輩の分までしっかり恭也先生をサポートします!」
初々しい後輩の笑顔に心臓の奥がチクンと痛む。
それを隠すように私は足早にデスクへと向かった。
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