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注:この作品は、短編小説『甘いロールキャベツ男子』の続編です。前作を先にお楽しみ頂くことをお薦めします。 夏はもうすぐ終わりを迎える。
……というのに、ここのところ毎日鬼のように仕事に追われて。海もお祭りも行けなかったし、夏らしい思い出は何一つ作れずにいた。
「マコトくん! ごめんね、部長の話が長引いちゃって……! 待ったでしょ?」
息を切らしながらデートの待ち合わせに辿り着くと、マコトくんはいつものように優しい笑顔を見せてくれた。
「いいえ、全然。そんなに慌てて来なくても俺はちゃんと待ってますから、俺のために走ったりしないでください。若葉さんが転んだりしないか、事故に遭ったりしないかって……そっちの方が心配になります」
「もう……マコトくんは相変わらず甘いんだから。少しくらい怒ってくれてもいいんだよ?」
「どうして怒る必要があるんですか。俺は若葉さんに会えるだけでこんなにも幸せなのに」
「っ、いきなりそういうこと言うの反則だってば」
「くすっ……貴女のその顔が見たくて、つい」
意外と意地悪なところも相変わらずマコトくんらしい。
仕事中は先輩らしく振舞ってるつもりだけど、こうして並ぶとやっぱり勝てそうもない。
「そういえば若葉さん」
「うん?」
「今度の週末、何か予定入ってますか? 久しぶりにどこか遠出できたらいいなと思ってたんですけど」
「あっ……、そのことなんだけどね」
私たちの働く部署では、毎年夏の終わりに社員への大型連休が与えられる。
せっかくの休みくらい私もマコトくんと過ごしたいけど……
「週末は地元へ帰ろうと思うの。ほら、年末年始は忙しくて帰省する暇なんてないでしょう? 今のうちに顔を出さないと両親が寂しがっちゃって」
「家族思いなんですね」
「そんなことないよ。最後の夏くらい、ホントはマコトくんとどこか行きたかったもん」
儚く遠くを見つめると、マコトくんはふと柔らかく微笑んだ。
「だったらそれ、俺も行ったらだめですか?」
「えっ」
「いつかは若葉さんのご両親にもきちんと挨拶したいと思ってたんです。だから、この機会に。もちろん迷惑じゃなければの話ですが」
「め、迷惑だなんてそんな! ただ、驚いた……そんな風に言ってもらえるなんて思わなかったから」
「俺は若葉さんと遊びで付き合ってるつもりはありません。ちゃんと将来のこと考えてますから、当然です」
「将来……」
まるでプロポーズみたいな言葉に、顔が熱く火照るのを両手で隠す。
「今のはちょっと気が早すぎましたね、俺。すみません」
「ううん! マコトくんが一緒ならすごく嬉しい。旅行みたいで楽しみ」
「そうですね。俺は少し緊張もしますけど」
「ふふ。大丈夫だよ」
マコトくんのひょんな提案からこんな話になっちゃったけど。
好きな人と帰省なんて……良い思い出が作れそう。
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