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注:この作品は、短編小説『恋人は俺様執事〜永遠の誓い〜』の続編です。前作を先にお楽しみ頂くことをお薦めします。 創にプロポーズされたのは、つい二ヶ月前のこと。
彼は第一に私の執事でありながら、父の片腕として裏方の事業にも携わるようになり、最近は多忙を極めている。
それでも私たちは穏やかに仲を深め、挙式の段取りも順調に進んでいた。
「お嬢様、お待ち合わせ場所はこちらでよろしかったでしょうか?」
「うん。ありがとう、送ってくれて」
ドライバーの真木が車のドアを開け、一礼する。
今日は役所へ婚姻届を取りに行く約束で、いつものように外で待ち合わせ。
創のお嫁さんになるという夢のような出来事がすぐ目の前の現実に迫ってきている。
胸を弾ませながら行き交う人通りを見渡すが、彼の姿はない。
「創、まだ来てないみたい。先に待ってるって言ってたのになぁ……」
「今朝は早くから旦那様とお仕事の打ち合わせをしていましたから、きっと時間が押しているのでしょう。それでも大事なお嬢様をお待たせするなんて、私からも注意しなくてはなりませんね」
「いいの、もうワガママ言ったりしないから。前は自分の不満ばかり言ってたけど、今は創の仕事を理解してる。私のために毎日頑張ってくれてる創を心から応援してるの。だから、責めないであげて」
「お嬢様……いつの間にか随分と大人になられましたね」
「当たり前よ。だって真木の知ってる私は一回り小さい私でしょ」
「それもそうですね。懐かしいです」
真木は長くこの家に仕え普段はパパのドライバーを務めているが、今日はたまたま送ってもらった。
創が就任する前に私の執事を務めていただけあって掛ける言葉は厳しいものの、創を立派に育てた大先輩だ。
「あの、お嬢様。大変不躾なことを伺いますが、本当に彼と結婚なさるおつもりですか?」
「……うん? どうしてそんなこと聞くの? 真木は反対?」
「いいえ、もちろん私は祝福しておりますよ。……ただ、後々ご面倒なことにならなければ良いのですが……」
「? 今、なんて?」
悩ましい表情で呟く真木に首をかしげるが、それ以上は口を閉ざした。
「……。何でもございません、ただの戯れ言ですからお気になさらず。それでは私は戻りますね。素敵な一日を、お嬢様」
もう一度深々と頭を下げて一礼し、真木は運転席へと乗り込んだ。
走り去る車を見つめながらさっき言っていた言葉の意味を考えるが、見えなくなる頃にはもうどうでもよくなっていた。
そんな浮かれ気分は、唐突に嵐を巻き起こす―――。
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