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事の始まりは、女子会と称したカフェの一席で、大学の友人たちと恋の話に花を咲かせていた時だった。
「ご、合コンっ……!?」
目を真ん丸に見開いて驚く私に友人たちは揃って首を縦に振った。
「この通り! 一生のお願い!」
「美羽、明日一日だけ付き合ってよぉ〜!」
彼女たちは必死に手を合わせておねだりしながら、困惑する私の方へと擦り寄る。
「そ、そんなこと言われても、みんなだって知ってるでしょ? 私、彼氏がいるから……」
「彼氏ってあの幼馴染のコト? わかってるよぉ、わかってるんだけどぉ……どうしても人数が一人足りないんだもん。美羽が来てくれたら万事解決なの!」
だからお願い、と潤んだ瞳で今一度懇願の目を向けられてはそう簡単に断れない。
渋々承諾すると彼女たちはパッと輝きを取り戻した。
「これで私たちも薔薇色のキャンパスライフが始まる予感ね! ありがとぉ、美羽! 本当にありがとぉ!」
「わ、私はただ同席するだけだからね?」
「大丈夫大丈夫、わかってるって! 座ってるだけでいいんだから、別に彼氏に悪いことしてるわけじゃないでしょ。羽伸ばしだと思って楽しみなよぉ」
「う、うん……」
彼女たちに圧倒されつい勢いで頷いてしまったけど、先行きがとても不安でならなかった。
そして、その嫌な予感は見事に的中してしまったのだ。
「―――美羽ちゃんだっけ? 何でそんな端っこにいるの? ジュースのお代わり、いらない?」
軽い自己紹介を終えたあと、友人たちが盛り上がっている傍らでひたすらドリンクばかり飲んでいた私に、お洒落な雰囲気の男性が新しいグラスを片手に声を掛けてきた。
「いただきます。えっと……真柴さん、でしたっけ?」
「うん、ヨロシク。もしかして美羽ちゃん、友達の誘いが断れなくて本当は乗り気じゃないのに来ちゃった感じ? 実は彼氏持ちだったりして」
「えっ……」
図星を突かれて返答に戸惑っていると彼はくすっと笑った。
「そっかぁ〜。めっちゃオレのタイプだから狙おうと思ってたのになぁ。残念」
「ご、ごめんなさい」
やっぱり、私なんかがこんな出会いの場に参加するのは大間違いだった。
もっと強く断るべきだったと今さら深く後悔するも、すっかり舞い上がっている彼女たちはこちらになど目もくれない。
仕方なく真柴さんの一方的な話に相槌を打ちながら飲食を繰り返し、ただひたすら時間が過ぎるのを待っていた。
「美羽ちゃん、退屈そうだね。オレの話はつまんない?」
「え? あ、ごめんなさい! そういうわけじゃっ……」
「いーっていーって。早く帰って彼氏のとこでも行きたいんでしょ? よかったらさ、先にここから抜け出しちゃう?」
「え……そんなことしていいんですか?」
「向こうは向こうで盛り上がってるし、別に問題ないっしょ。タクシー呼んであげるからおいでよ」
「ありがとうございますっ……!」
にっこりと笑って立ち上がった彼に続いて私もこっそりその場を後にする。
一瞬ふらっと足元がもつれたような気がしたけど、ようやくこの空気から解放されることにホッと胸をなで下ろした。
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