君の小さな想い出 | ナノ

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亮「なぁ……おまえ、さっきからなに泣いてんだよ! もうオレたち小学生だぞ。泣くのは幼稚園までだって父ちゃん言ってただろ!」

陽菜「ぐすっ、うぅっ、ぐすん」

亮「あー、もう! なんなんだよー! ほら、これ使え、ティッシュ!」

悠「亮、こういうときはティッシュじゃなくてハンカチだよ。ところで陽菜はどうしたの? どうして泣いてるの?」

陽菜「ぐすんっ……」

亮「さっきからなにも言わねーんだよ、こいつ。言わなきゃこっちもわかんねーっての!」

悠「まさか、亮が泣かせたの?」

亮「はぁ!? バカめ! オレがこいつを泣かせるようなことするわけないだろ!」

悠「ふぅん? この間、陽菜が大事に使ってたウサギの消しゴムの耳をちぎった犯人、だれだっけ? 給食のプリンを横どりしたのは? ランドセルの中に虫のおもちゃを入れていたずらしたのは?」

亮「うっ……べ、べつに、それくらいいいだろ!? 幼なじみなんだからよ!」

悠「幼なじみだからって悪いことはしちゃだめだよ。やっぱり今日も亮が泣かせたんじゃないの?」

陽菜「……(ふるふるっ)」

亮「ほら、ちがうって言ってるじゃねーか! そういうの、エンザイって言うんだぞ、エンザイ。知ってるか?」

悠「えん罪、ね。今朝テレビで言ってるのを聞いてただけでしょ。って……そんなことはどうでもいいよ。ねぇ、陽菜、本当にどうしたの?」

陽菜「……ぐすっ……」

亮「うんとかすんとか、なんとか言えよ! おまえ、いちいち泣くな!」

悠「亮はだまってて。……陽菜、ともだちとケンカでもしたの?」

陽菜「……(ふるふる)」

悠「じゃあ何か、かなしいことがあった?」

陽菜「……(ふるふる)」

悠「うーん……。あ! もしかして……ちょっと陽菜、さわってもいい?」

亮「おい!? 何がさわってもいいだよ!? だめに決まってんだろ!」

悠「おれは陽菜に聞いてるの。ちょっとさわるからね、おでこ」

亮「は? おでこ?」

陽菜「ぐすっ、うぅっ……うわぁぁぁんっ!」

悠「やっぱり……。陽菜が泣くのはたいてい亮にいじめられたときか、風邪をひいたときだからね。どうしてだまってたの? 陽菜」

亮「おまえ、熱あんのか!? ……うわっ、ほんとだ。なんでもっと早く言わなかったんだよ!」

陽菜「うわぁぁん……だって、だってぇ……!」

亮「ああ! おまえ、いまだにクスリが飲めないもんな! 注射もキライとか言って」

悠「陽菜のお父さんは、陽菜が風邪ひくとすぐに病院騒ぎになるしね。連れていかれたらどうしようって、それで泣いてたんだ」

陽菜「うぅっ、ひっく……」

悠「でも、つらいでしょ? こんなに熱があるんだよ。早くおうちに帰ろう」

陽菜「やだぁ……」

亮「おい、つべこべ言ってんじゃねえ! ほら、のれ!」

陽菜「……?」

亮「見ればわかるだろ! おんぶしてやるっつってんだ!」

陽菜「えっ、……えぇぇ!?」

亮「おい、こっちもはずかしいんだよ! 早くしろ、ほらっ!」

陽菜「きゃぁぁっ!」

悠「亮、もうちょっとやさしく……いや、でも今は早く帰らないといけないから……ガマンしよっか、陽菜」

陽菜「わーんっ……!!」


◆◇◆◇


悠「おじさんかおばさんが帰ってくるまでおれたちが側にいるから安心して」

亮「まあ、これでも食って元気だせ! 冷蔵庫でみつけてきた、ヨーグルト! おまえ、今日の給食ぜんぜん食ってなかっただろ。知ってるんだぞ」

陽菜「……おなかすいてないもん」

亮「ふーん。うおっ、これイチゴが入ってるやつじゃん、うまそー! 陽菜が食わないならオレもーらいっ」

陽菜「あぁっ、亮ちゃんは食べちゃだめぇ! わかったよぉ、食べるから……あーん、して……?」

亮「はっ、はぁ!?」

悠「ふふ、陽菜は甘えんぼさんだなぁ」

亮「おっ、まえ……! 赤んぼうかよ……! ったく、しょーがないからたべさせてやる……しょーがないから、だぞ!」

陽菜「あーん」

亮「チッ……、ほらっ!」

陽菜「あむっ……冷たくて、おいしい」

悠「それ食べたら寝ようね」

陽菜「まだ夜じゃないもん、ねむくないよ」

悠「だぁめ」

陽菜「いやぁ……」

亮「おまえ、ワガママばっかり言ってると病院つれていかれるぞ」

陽菜「うわぁぁん!いやぁ……!」

亮「だったらおとなしく寝ろよ!」

陽菜「……じゃあ……あのね……。手、つないでくれたら、目つむる」

亮「おまえなぁ……!」

悠「いいよ、わかった。じゃあおれが手つないでてあげる」

陽菜「ほんとに? やったぁ!」

悠「ふふ。これでいい? ずっとこうしててあげるからちゃんと眠るんだよ」

陽菜「うん、ありがとう、悠ちゃん」

亮「チッ……」

陽菜「……」

悠「素直じゃないなぁ、亮は」

陽菜「……。……亮ちゃん」

亮「なんだよ」

陽菜「亮ちゃんは、こっち」

亮「……」

陽菜「こっちだけ、つめたいんだもん……手、つなごう?」

亮「……くそ! わかったよ! ほら、これでいいだろ!」

陽菜「うん! あのね、亮ちゃん、悠ちゃん……大人になってもずっと、手つなごうね」

悠「もちろん。おれはずっと、陽菜のこと、大すきだから」

亮「バッ、バカ! オレだっておまえのこと……」

陽菜「……すー……すー……」

亮「って、おい!? 寝るの早すぎだろ、こいつ……くそっ!」

悠「ふふ、残念。……ねぇ、亮。大人になったときに陽菜と手をつなぐのは、おれだよ?」

亮「っざけんな! オレに決まってんだろ!」

陽菜「……むにゃむにゃ……。ふたりとも……だぁいすき……」

悠「……。ふたりとも……ね」

亮「チッ、いつかはオレだけをすきって言わせてやるんだからな」

悠「その勝負、まけないよ」

亮「ふんっ、のぞむところだ!」

悠「……でもさ、その前に……おれたちも、ちょっと眠らない?」

亮「そ、そうだな……こいつのせいで、オレたち身動きとれねーし……」

陽菜「……(すやすや)」

悠「早く熱が下がりますように。陽菜が笑顔になりますように。おやすみなさい」

亮「おまえが元気じゃねーと、調子くるうんだよ……だから、さっさと元気になれよ、陽菜。おやすみ」

キミの小さな想い出【完】


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