春は恋の予感? | ナノ

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 それは、三人が高校生になったばかりの頃のお話―――。

亮「おい、悠。最近陽菜のやつ、付き合い悪過ぎねーか? 今日は居残りするから先帰れ、土曜は試合の応援に行くから遊べない、日曜は友達とカラオケ。……はぁ。同じ学校通ってんのに一日顔も合わさねーってどういうことだよ?」

悠「仕方ないよ。いくら幼馴染だってずっと一緒にいるわけじゃない。それに陽菜は友達が多いんだから、貴重な休みに亮なんかと遊ぶより他のみんなと遊びたいはずだよ」

亮「俺なんかって何だよ……っくそ。だいたいお前、知ってんのか? あいつの男の噂」

悠「男の噂?」

亮「陽菜のクラスにやたら目立つのいるだろ、もやしみたいにひょろっとした奴」

悠「もやしって……、あぁ、えっと確か、鈴木くんだったっけ。彼、サッカー部の期待の新人エースだよ」

亮「鈴木だか佐藤だか知らねーけど、土曜に行く試合の応援ってそのサッカー部のことだぜ。陽菜を迎えに行った時、たまたま楽しそうに話してるのが聞こえたんだよ」

悠「ふうん……それで?」

亮「それでって……お前は気にならないのか?」

悠「気にならないわけじゃないよ。でも、恋をするのは陽菜の自由だし、俺たちが口出しできることじゃないでしょ。陽菜が彼を選ぶなら、黙って見守るしかないんじゃないの?」

亮「へぇ。澄ました顔して本当は腹ん中じゃ煮えくり返ってんだろ、お前も」

悠「……さぁね。でも、少なくとも亮みたいにそれを邪魔しようとか馬鹿なことは考えてないよ。そっとしといてあげなよ、陽菜だっていずれは幼馴染離れする時は来るんだ」

亮「チッ、本気でとられても知んねーぞ? その時は、お前は指くわえて見てるんだな。じゃ! 先帰ってる」

悠「あっ、おい、亮……!? ……まったく一体何を企んでるんだか。俺だって、できることならば……」


◇◆◇◆◇◆


 ―――土曜日。

亮「よし、メール送信完了っと……」

悠「ん? 何してるの、亮」

亮「あいつにメールしたんだよ。今頃、きゃーきゃーバカみたいな色声出して騒いでる頃だろ」

悠「えっ? メールって、何の用事で?」

亮「そんなの決まってんだろ。『悠が高熱でぶっ倒れたからお前も早く見舞いに来い』ってさ」

悠「……ええっ、何で俺が? 言ったはずだよね、俺は陽菜の恋を邪魔する気なんか……」

亮「ない? それ本当か? この一週間ずっとそわそわしてたクセに。用もねーのにわざわざ陽菜の近くウロついてんの、俺は知ってるぜ」

悠「気になっただけだよ。彼が陽菜を傷つけるような人には見えないけど、一応……心配っていうかね」

亮「それを世間じゃ『邪魔』っつーんだよ! ま、とにかくこれであいつも試合が終わったらすっ飛んで帰ってくるだろ。俺のおかげでお持ち帰りはまぬがれるな」

悠「……はぁ。陽菜が怒らないといいけど」


◇◆◇◆◇◆


ピンポーン

亮「んぁ、もう来たのか?」

悠「そうみたいだね、早いな。まだ一時間も経ってないと思うけど」

亮「鍵なら開けといたし、あいつなら勝手に入ってくるだろ」

バタバタッ…

亮「ほら、きた」

バタンッ

陽菜「はぁっ、はぁっ……亮! いるんでしょっ!? 悠は大丈夫なの!?」

亮「おい、大声上げなくても聞こえてるって。いるだろ、ここに。悠も」

陽菜「え……」

悠「ごめん、陽菜……熱で倒れたっていうのは嘘なんだ。亮が勝手にでっち上げたことで……」

陽菜「はぁ、はぁ……、そうなの? なぁんだ、よかったぁ」

悠「陽菜……大丈夫? すごい汗。それに、息切れも」

陽菜「さっきまで友達とサッカー部の試合の応援に行ってたんだけど、亮からメールが来て慌てて走って帰ってきたんだよ。はぁ……疲れたぁ」

亮「やっぱりあの野郎の応援かよ」

陽菜「え? あの野郎?」

悠「鈴木くんのこと。最近、陽菜と仲良くしてるからってヤキモチ妬いてたんだ、亮が」

亮「なっ! おい、お前もだろ……悠!」

悠「……まぁ、そうだね。でも、邪魔しちゃったことは本当に悪いと思ってる。ごめんね、陽菜。ほら、亮もちゃんと謝った方がいい」

亮「……悪かったな」

陽菜「うん、わたし、二人に嘘つかれるのは嫌だな。でも……ところで、……邪魔って何の話?」

亮・悠「え?」

陽菜「わたし、友達と試合の応援に行っただけだよ?」

亮「だから、それを邪魔したってことだろ。お前、途中で抜けて来たんじゃ……」

陽菜「え、うん? でも元々わたしは付き添いっていうか……友達を連れていくことが目的だっただけで、先に帰るつもりだったし……別に邪魔されたって言うわけでもないっていうか」

亮「……はぁ?」

悠「どういうこと? 陽菜は、鈴木くんのために行ったんじゃなかったの?」

陽菜「え? だから、鈴木くんがね? 一年生なのに初めての試合に出れることになって、もし今日ゴールを決めることができたら好きな子に告白したいからその子を適当にごまかして連れてきてくれないかって、そう頼まれてたの。素敵だよね!」

亮「はぁぁ!? 何だそれ、くっだらねぇ……」

悠「つまり、陽菜が鈴木くんに恋してるわけでも、彼が陽菜に好意を寄せてるわけでもないってこと?」

陽菜「えぇぇっ!? どこからそんな話がっ……あるわけないじゃん、そんなこと!」

亮「んだよ、お前……紛らわしいことすんじゃねぇよな! この俺がどれだけ心配したか……って、何言わされてんだ俺……」

陽菜「亮がわたしの心配? って、どうして?」

悠「……ふふ、あはは。なんだ、亮の早とちりか。俺もどうなることかって正直言うといてもたってもいられなかったけど、なんだ、そっか……ははは」

陽菜「ちょ、ちょっと! 悠まで、急にそんな笑ってどうしたの? 二人とも変だよ、本当に熱があるんじゃ……」

悠「いや、違うよ。ごめん、安心したら笑いが……ね、亮」

亮「ま、結果オーライってことだよな」

陽菜「ねぇ、一体何の話? もう、亮も悠もわけわかんない!」

悠「……うーん……この調子じゃ、陽菜には当分来ないかもしれないね。恋の予感は」

亮「鈍いにも程があるっつーの。俺らも、相当苦労させられるってことだな」

陽菜「?」

 斯くして、彼女に"本当の恋の予感"が訪れたのは、この時からまだまだ先の春だったのである―――。

春は恋の予感?【完】


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