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今日は朝からめずらしく失態を晒してしまった。
それも、一つどころではない。
食器を割るという典型的なミスから始まり、生花の発注ミス、部下への伝達ミス、茶葉の配合分量ミス……
どれもこれも、新人の執事ですら間違えようのない、初歩的かつ単純過ぎるミスである。
この俺としたことが……はぁ、不覚だ。
俺のせいで苦い茶を飲まされるハメになった一華が渋い顔を浮かべる。
「ま……まずくは、ないけど……」
そんな痛々しいフォローをされても、余計に惨めなだけである。
「申し訳ございませんでした、お嬢様。以後、このような事のないよう十分に注意致しますので」
他の執事の手前もあり、深々と頭を下げると、一華は慌てたように手を振って応える。
「あ、頭を上げて、ねっ!? 創がこんなにミスをするなんてきっと疲れてるだけよ。ううん、むしろ普段が完璧すぎるの! 私は本当に、気にしてないから」
「……はい。恐れ入ります」
まだ俺が見習いで出来の悪かった頃も、こうやってすぐに何でも許してくれるお人好しなお嬢様だったことを思い出したら何だか少し笑えた。
……が、あくまでもそれは昔のことだ。
今日の失態は、今日のことである。
「それにしても、創にしてはめずらしいよね……? 何かあったの? もし本当に疲れてるのなら、私からパパに休暇をお願いするけど」
「いえ、その心配は無用です。僕は疲れてなどございません。ただ……」
「……ただ?」
一華が興味深そうな目を向けて首をかしげる。
「……。いいえ、何でも……。僕はこれから東堂様をお迎えする準備がございますので、失礼します」
あっ、と残念そうな声を上げる一華を残して俺は部屋を後にした。
……言えるか。こんな馬鹿げたこと。
これから夕刻に行われる一華と東堂の見合いが気になって、朝から仕事が手に付かなかったなんて、どこのガキだよ俺は。
そもそも、そんな心配なんかせずとも一華はすでに俺のもんだろ?
あいつは、俺に夢中で俺のことしか考えてねぇし。
見合いだって適当にあしらって終わるはずだ。
だけど……あぁ、クソ。
何だってこんなにも苛々するんだ。
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