Trick or Treat | ナノ

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 10月31日―――。

「じゃーん! 見て見てっ! どう、似合ってる?」

 リビングの扉から勢い良く飛び出した私に、テレビの前でくつろぐ母と弟の空が揃ってこちらを振り向いた。

「あら、栞。アンタ意外と似合うじゃない」

「へへ、ほんと? 一度着てみたかったんだよね〜こういうの」

 そう。今日はハロウィン。
 大学で開かれるイベントに参加するため、どんな仮装をしていこうか迷いに迷った末、これに決めた。

 裾の膨らんだスカートにフリフリのエプロン。
 ゆるく巻いた髪には白いレースのカチューシャを纏って。
 胸元にはハロウィンらしいかぼちゃのリボンをあしらった、黒いメイド服。

「……」

 母の後ろから空がじっとこちらを眺めている。
 ちょっとだけ恥ずかしくなって視線を逸らすと、フンと小さく鼻を鳴らした。

「いい歳してムリしすぎ」

「なっ!? 3つしか変わらない空に言われたくない!」

「だいたいそれ、仮装っていうかただのコスプレじゃん」

「うっ、うるさいなぁ!」

 顔を合わせれば口論を始める私たちに、母は深々とため息をついて逃げるように立ち上がった。

「二人とも喧嘩はやめなさいっていつも言ってるでしょう? まったく呆れるわ……お母さんちょっと買い物に行ってくるから、空は留守番お願いね。栞も気を付けて出かけるのよ」

「はぁい……」

 足早に出て行く母を見送り、玄関の閉まる音が聞こえてくる。
 すぐに私は後ろをくるっと振り返った。

「……本当にそう思ってる?」

 恐る恐る尋ねると、あからさまに不機嫌な顔をしていた空が突然私の腕を強く引いた。

「わっ!?」

 崩れ込む身体はソファに受け止められ、上に覆い重なった空が両手をついて私を抑えつける。

「……バカだな、そんなわけないじゃん。可愛すぎてヤバイ。今すぐ襲いたくなった」

「そ、そんなこと言われても! 私はこれからイベントに行くんだよ」

「本気でその格好して行くわけ?」

「うん。だってこれしか用意してないし」

「……はぁ。栞のこんな姿を誰かに見られるなんて、すげー嫌なんだけど」

 駄々をこねる子供のようにそう言って甘いキスが私の唇を塞ぐ。

「んん……っ」

 胸のリボンをするりと解かれ、そこから忍び込む空の手を掴んで止めた。

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