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「そうだ、陽菜。はいこれ」
私の部屋へ入るなり、悠が白い箱を差し出す。
「なぁに?」
それを受け取って開けてみると、そこには色んな種類の可愛らしいケーキが詰まっていて。
私は思わず目を輝かせた。
「そういえば今日って……!」
「そう、バレンタインのお返し。今年は陽菜が手作りチョコをくれて本当に嬉しかったから、俺も手作りを……って言いたいところだったけど、お菓子作りは得意じゃないからね。こんなので、喜んでもらえる?」
「もちろんだよ、嬉しい!」
箱のラベルを見ると、駅前にできた新しいケーキ屋さんのものだと分かる。
あそこは確か一時間も並ばないと買えないほどの人気店だ。
悠の気持ちが嬉しくて顔が緩む。
「ありがとう、悠! わぁ、どれも美味しそうだね! 一緒に食べ……、あっ」
言いかけた言葉を抑える私。
「陽菜? どうかした? 食べないの?」
「あ、えっと、その……これは後で一人で食べてもいいかな?」
しどろもどろな私を不思議そうに悠が見つめる。
「? 陽菜のために買ってきたものだから別に構わないけど……何かあった? 陽菜らしくないね。いつもなら、ケーキを見ると我慢できないって顔するのに」
そう言って優しく私の頭を撫でる。
「具合が悪いならきちんとそう言って? 今日の陽菜、何か様子がおかしいよね」
本気で心配そうな顔を浮かべ始めた悠に私は慌てて否定する。
「あっ、ううん、具合は悪くないよ! ただ……、その、食欲はないっていうか……そう、今はお腹が空いてないのっ」
下手な嘘を並べてみるが、長年一緒にいる幼馴染にそんなことが通用するはずもなく。
悠がじっと目を見つめている。
「正直に言って、陽菜。何を隠してるの?」
「うぅ、それは……」
悠の真っ直ぐな視線が突き刺さり、私は観念して口を開いた。
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