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「ちょっと、空!また私のシャンプー勝手に使ったでしょ!?何度ダメって言えば分かるの!?」
濡れた髪にバスタオル一枚の姿でリビングに戻ると、ソファに座りテレビを見ていた弟の空と、台所で洗い物をしていた母が揃ってこちらを振り向いた。
「は?別にいいじゃん。家族なんだし」
しれっと言葉を返す空をきつく睨むと、母が間を割って入る。
「こら、栞。アンタはもう大学生なんだから、そんな格好で家の中をウロつくんじゃないの」
「だってお母さん!私がバイト代で買ったシャンプー、あれすごく高かったのに!空が毎日毎日っ…」
「栞。いいから先に服を着なさい」
「……むぅ」
叱られてしまった私に空は勝ち誇った顔を浮かべ小さく鼻で笑った。
「ほら、空もテレビなんか見てないでそろそろ寝るのよ。それと、あんまりお姉ちゃんを困らせないの」
「はいはい。分かってるって」
空は軽く母をあしらうとテレビの電源を落として立ち上がった。
そして冷蔵庫から取り出したペットボトルの水を器用に片手で回しながら、一足先にリビングを出て行く。
「全くもう、この子たちは。姉弟なのにどうしてこう仲良くできないのかしら……はぁ」
そんな母の嘆く声を背に私も頬を膨らませながら渋々部屋へと戻った。
―――大学生になったばかりの私と、高校生になったばかりの弟。
二人は昔から仲が悪いと、両親は今でもそう思ってる。
だけど……本当は。
本当の……私たちは――――。
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