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部活を終えたサッカー部がぞろぞろとグラウンドを後にする放課後の時間は、女子賑わいの時間でもある。
そんな黄色い声が飛び交う中、誰よりも注目を集めているのは……
「優斗! 今日もすごくカッコよかったよ! はい、タオルとお水」
女子たちから浴びせられる痛い視線に臆することなく群れの中へ駆け込むと、爽やかな汗を流しながら彼がくるっとこちらを振り向いた。
「あぁ……小春。いつもありがとね。助かるよ」
すらりと伸びた身長と、程良く焼けた肌。
さっぱりと整えられた髪に愛くるしい目元。
私はこの笑顔を見るだけで一日の疲れも吹っ飛んじゃう。
「一緒に帰ろうか。着替えてくるからちょっと待っててくれる?」
「うんっ!」
ポンポンと頭を撫でてくれる優斗にニッコリ微笑んで見せるとギャラリーからはうるさい程の悲鳴が上がった。
彼こそが、女子の注目の的。
そして私の大好きな……大好きな幼馴染なのだ。
「ふふっ」
幼馴染という特権に優越感を感じながらも口元を緩ませていると、背後から暗い影が近付いた。
「おい。ニヤニヤしてんじゃねぇよ、チビ。相変わらず気持ちわりー奴」
その声の方へと振り返ると、気だるそうにタオルで汗を拭いながらパタパタとシャツの胸元を煽ぐ見慣れた姿が視界に映る。
「あ、鷹斗! チビって呼ばないでっていつも言ってるでしょ!?」
「チビをチビって呼んで何が悪いんだよ」
「だからそうやって連呼しないでってば!」
昔から何度このやり取りをしてきたことか……今ではすっかりお馴染みの光景。
彼もまた、私の幼馴染である。
いつだって私の味方をしてくれる優しい優斗とは正反対、根っからのいじめっ子気質で意地悪ばっかりの鷹斗。
こんなにも性格の違う二人がまさか『双子』だなんて。幼馴染の私でさえ未だに信じたくもない事実……。
「ほら。喧嘩するなよ、二人とも」
間を割って入るように着替えを終えた優斗が姿を現すと一段と女子たちの声は高まり、鷹斗はすかさずげんなりした表情を浮かべた。
「毎日毎日うるせぇ女共だな……つーかあいつら、何で優斗なんだよ。俺だっていいだろ」
「そんなの、鷹斗は愛想が悪いからに決まってるじゃん! 優斗みたいに女子に優しくすれば鷹斗だってモテるのに」
「俺はどうでもいい奴に愛想振りまくほどお人好しじゃねーの」
「そんなこと言ってホントはちょっと優斗のことが羨ましいくせに」
「はぁ? 何で俺がこいつなんか……」
「もうそのくらいにしておきなよ、小春も鷹斗も。本当に二人は小さい頃のまま変わらないね。見てて飽きないよ」
くすくすと優斗が笑う。
その傍らでまた鷹斗と小言を言い合いながらも、私たちは帰り道を三人で並んで歩いていく。
いつかは二人っきりで……手を繋いだりもできるのかな、なんて。
つい変な想像も膨らんでしまうけど。
こんな風に三人で過ごす時間もまた、私にとってはすごく心地良いんだ。
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