アルトがうらやましい幼なじみ



羨ましいな。
何の脈絡もなく告げられた言葉に、ランカは目を瞬いた。
「何が?」
「アルトの事よ」
「アルト君が?」
えぇ、と彼女が頷いた。
一体、彼女はアルトのどこが羨ましいのだろうか。彼女は幼い頃から名字家の跡取りとして大事に育てられてきたのに、それのどこが不満なのだろう。
「本当、羨ましい」
ほぅ、と彼女がため息をついた。彼女の視線を辿って行けば、その先にはミシェル達と談笑するアルトの姿があった。
「アルト君のどこが羨ましいの?」「だって彼は自由だわ」
かつて自分と似たような立場にあったアルト。厳しい稽古のもと精進する彼に、いつしか彼女は惹かれていった。
彼の演技が好きだった。
まだ幼いのに一座の誰にも決して劣らないその腕前。
ゆくゆくは彼も、自分も、それぞれの家を継ぐのだと思っていた。けれど違った。
彼は演じる事よりも、空を採った。
羨ましい、と思った。
自分は引かれたレールを歩いていく事しかできないけれど、彼は自らレールを引き、歩いていく。


「──私は、引かれたレールの上しかあるけない」
嫌われるのが怖いのよと、彼女は諦めたような、そんな顔で笑った。
自分をこれまで育て上げてくれた両親に、兄妹に。その他大勢の、次期当主の私を可愛がってくれた人たちに。
「アルトは今、自分の意志で自らの道を進んでる。それが、羨ましいのよ」





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