新開隼人におぶられて帰る
目を覚ますと誰かの背中だった。すんと鼻を鳴らすと嗅ぎなれた香水の匂いがして、ホッとする。隼人の匂いだ。
「……起きたのか」
「ん、毎回ごめんねぇ」
「いいよ別に。慣れたし」
なれたし、という隼人の言葉に情けなくなって涙がこぼれそうになる。こうやって酔いつぶれるの、何度目だろう。友達と酒飲んでると、つい自制がきかなくて飲みすぎてしまう。その代わりに呼び出されるのが隼人なわけで、大学生でレポートだとか忙しいだろう隼人をこんな時間に呼び出してしまうのが、心底申し訳なくて。慣れたし、と言う言葉に自分の情けなさをまざまざと思い知らされて、泣きそうだ。というか涙出てきた。涙が出てくると一緒に鼻水が出てきて、鼻をすする。
「名前さんが俺頼ってくれるの、こんなときくらいだから嬉しいよ」
「……隼人好き」
「知ってる」
「いつもありがとう」
「俺こそいつも弁当ありがとう」
「あんなの、夕食ののこり詰め込んだだけじゃん」
「でもうまいし、バランス考えてくれてるだろ?」
「隼人は、自転車の選手、だから」
リズム良く揺れる背中にまた眠くなる。大きくて暖かくて広い、安心する背中だ。しょぼしょぼする目で隼人の顔を盗み見ると、頬を緩めて笑っていた。嬉しくて私も笑う。
よっと掛け声をかけて、隼人が私を背負い直した。びっくりして抱きつくと、隼人が声をあげて笑った。抱きついた身体は、記憶の中の隼人よりもずっとしっかりしていた。
(ああ、そっか、知らないうちにこんなにも、)
彼の高校時代は部活漬けで、ほとんど合わなかった。彼の大学進学先と、私の就職先が近くだったことをきっかけに同棲を始めた。だけどなんだかんだやっぱり忙しくて、すれ違いが続いていた。私が一番よく覚えている隼人は、まだ入部したての頃の隼人だ。あの頃は今よりもずっとあどけない顔をして、身体も薄かった。
(こんなに大きくなってたんだなぁ)
たくさん食べて、たくさん練習して。知らない間に、こんなに男の人っぽくなってたんだなぁ。隼人の背中で、うとうととしながら、そんなことを思う。目の前の背中が愛おしくて、こっそりキスをした。
141121Twitter『夢書き深夜の真剣執筆60分一本勝負』にて
14124加筆・修正
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