総司と年越し
*羅刹ヒロイン
大広間の喧騒が遠くに聞こえる。
新八の笑い声が一際大きく聞こえたのに、そっとほくそ笑む。去年の年の暮れにはあそこに居たんだよなぁと思うと、胸が痛い。あぁ皆は元気にしているだろうか。土方さん、あまり根詰めていないといいけれど。
空を見上げれば、大きな満月に輝く星たち。月と大広間の喧騒を肴に徳利をを傾ける。
「あり、空っぽ」
仕方ない、勝手場から失敬するかな。あぁでも平隊士にあったら面倒だよなぁ…。どうしようかと悶々と考えていると、後ろから急に声をかけられた。と、同時に肩に感じるあたたかみに胸が甘く疼く。
「やぁ。久しぶり。」
「総司くん!お久しぶりです。調子はどうですか」
「まぁまぁかな。君は一人酒?」
総司くんがお酒臭いと眉を顰めて離れていった。そんなに臭いかな。自分でも匂いを嗅いでみたけれど、よく分からない。
「えぇ、まぁそんなところ」
空になった徳利を振りながら言う。そしたら寂しいねぇ、なんてしみじみと総司くんが言うものだから、よけいなお世話です、とかえす。
「千鶴ちゃんはどうしてますか」総司くんが少し離れたところに腰を掛けた。
「大広間で酔っぱらいの相手をしているよ」
「それはそれは…」
大変そうですねぇ。私もこんな身体でさえなければ手伝うのですが。あぁでも。
「自分の仕事取られちゃったみたい?」
「はは、正解ですよ。総司くん」
いつもなら──ううん。少し前なら私が酔った左之や新八の相手をして、適当な酒のつまみを作ったり。みんなが寝たあとは源さんと一緒に酒宴の後片付け。徳利とお猪口を拾って勝手場で洗って。風邪をひかないようにと広間で雑魚寝をしているみんなに布団をかける。土方は下戸なのに呑むから次の日はよく二日酔いに悩まされていたなぁ…。
面倒だなぁ、なんて思っていたけど、いざ離れてみると恋しく感じる。変な話ですよね。
総司くんは私の隣に座ると片手に持っていた徳利を差出した。
「総司くん?」
「一人で酒盛りはつまらないからね。相手してあげるよ」
ありがとうと礼を言いながらお猪口を差し出せば、酒が注がれる。総司くんが自分の分も注ぐ。
「かんぱ──」
乾杯。そう言おうとした瞬間に、辺りに除夜の鐘が鳴り響く。
二人で顔を見合わせると、どちらからともなく笑いだした。くすくす、なんて丁度いい具合に鳴ったんだろう。
「明けましておめでとう。今年もよろしく」
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
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