彼女の声が聞きたい元親
なんとなく、眠れない。そんな夜には決まって、無性に彼女の声が聞きたくなる。
携帯の番号を一つ、一つと押すたびに流れるぴ、という音に次第に鼓動が高まっていく。たかだか電話一本、されど一本。彼女にかけるかけるというだけでひどく緊張する。汗ばんだ手をズボンで拭った。
あとはこの通話ボタンを押すだけ。この通話ボタンを押す…押す、押すだけ、なのに、なかなか通話ボタンが押せない。もう深夜だし、もしかしたら寝てるかもしれない。起こしてしまったら申し訳ない。元親が悶々と悩んでいる内にも、淡々と時間が過ぎていく。
一旦携帯を閉じて机の上に置いた。
すぅ、と息を吸って自分の頬を両手で叩いた。此処まできたらあとは勢いだ。男なら覚悟を決めろ、長曽我部元親!
深呼吸をして、それから携帯を手に取り通話ボタンを押した。
『んー、ちかちゃん?』
寝呆けているのか、少し舌足らずな喋り方に良心が痛む。
「わりぃ、寝てたか?」
『はは、気にしないでいいよー。で、何か用事?』
「あー、いや。特に用事はねぇんだ」
『なにそれー。人起こしといてないわ』
きっとベットに寝そべりなが不貞腐れているであろう彼女を思い浮かべて、そっと笑む。今ごろおもいっきり眉を顰めているに違いない。歳のわりには彼女は子供っぽいところがある。
「わりぃっつたじゃねぇか。お前の声が聞きたかったんだ、しょうがねぇだろ」
我知らずと零れた本音に、沈黙が返ってくる。俺何か地雷を踏んだか?
『……ちかちゃんのクセに生意気だぞー』
ドキッとしちゃったじゃんか。彼女はそう言って黙り込んでしまう。
ああどうしたものか。
顔が熱い。きっと俺の顔は茹で蛸のように真っ赤なのだろう。わざわざ鏡を見ずともわかる。
『……』
「……」
毛利との沈黙はただ気まずいが、彼女とのあいだに流れる沈黙は嫌いじゃない。あたりはほぼ無音で、世界にたった2人きりになってしまったような、そんな錯覚さえ覚える。
『……、ね、ちかちゃん』
「あ?」
『好きだよ』
「、ばぁか。俺は愛してんよ」
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