新開隼人と同意の上での監禁
twitterのフォロワーさんのネタをお借りしました!
もう外に出るのは嫌だと、彼女が泣いた。もう傷つきたくない、見たくない聞きたくもないと、俺にすがりながら咽び泣く。俺は彼女の華奢な身体を抱きしめて言った。
「もう外に出なくていいよ。おれがおめさんを守るから」
「……ほんとに?」
「ああ。必要なものは全部俺が用意するし、外には出なくていい。代わりに、俺が帰ってきたらおかえりって言って欲しいんだ」
上目遣いに彼女が俺を見つめる。泣きはらして真っ赤な目が痛々しい。涙に濡れた頬を優しく撫でる。
「……私、外に出なくていいの?」
「ああ。全部俺がやるから、おめさんは家に居てくれたらそれでいい」
「……ほんとにいいの?」
まだ不安そうな彼女を安心させられるように、微笑んで頷いた。内心は焦りで一杯だ。弱った彼女の心に漬け込んで、閉じこめようとしている。こんなまたとない機会を逃したら、彼女を囲うことなんてできない。
彼女の腕が、そろそろと俺の背に回った。
「ほ、ほんとに外でなくていい?」
「いいって言ってるだろ。おめさんに家にいて欲しいんだ」
「ほんとのほんと?」
「ほんとだよ。家にいて、俺が帰ってきたらおかえりって言って欲しい」
「……うれしい」
彼女がへにゃりと笑った。
それから彼女との同居が始まった。食材や日用品は宅配か、俺が仕事帰りに買って帰った。朝起きると彼女がもう起きてきて、俺の朝ご飯を作ってくれている。お弁当のオカズなんて昨日の残り物でもいいのに、彼女は毎日オカズを手作りしてくれる。空っぽのお弁当箱を渡す時に美味しかったと伝えると恥ずかしそうにはにかむ彼女がたまらなく愛おしい。
幸せだ。
彼女は毎日俺が帰ると、いつも「おかえり」と出迎えてくれる。どんなに帰りが遅くなっても、出迎えてくれる。それが嬉しい反面、虚しくもあった。俺がはじめに、おかえりと言って欲しい頼んだからじゃないのか――。帰り道はいつも不安だ。もし帰って家が真っ暗で、彼女が居なくなってたら。考えるだけで恐ろしい。弱っているところに漬け込んだという自覚はある。あるからこそ、いつか終りが来るかもしれないと恐ろしく思う。もし彼女に社会復帰をしたいと望まれたら。その時俺はどうしてしまうだろう。いっそ子でも孕んでしまえば、逃げられなくなるだろうか。
頭を振って昏い考えを追い出す。大丈夫、彼女は今日も家にいるし、おかえりなさいと言ってくれる。「いつか 」なんてのは訪れない。
鍵を差し込んで回す。ドアの向こうからパタパタとスリッパで駈ける音がして、頬が緩む。ドアノブを回してうちへ入ると同時に衝撃を感じた。彼女だ。
「おかえりなさい!」
顔を上げて満面の笑みを浮かべて彼女が言った。ぎゅーって抱きつく彼女に嬉しくなって俺も抱きしめる。
「ただいま」
よかった、今日も居てくれた。嬉しいのとホッと安心したのとで彼女をキツく抱きしめた。
隼人くんはいつもドアを開ける時一瞬躊躇う。本人は気づいていないから無意識なんだと思う。その一瞬はきっと、私が原因だ。
あの日から続くこの生活はとても快適だ。金銭的な面について全部隼人くんに任せ切りなのが心苦しいけど、でもこの生活を初めて良かったと思う。外に出ないだけで友達とコミュニケーションは取れるし、炊事家事洗濯はもともと好きだったから苦ではない。それに、私の作った料理を本当に美味しそうに隼人くんは食べてくれる。これ以上に幸せなことがあるだろうか。
他人とコミュニケーションを取れるようにはなったっけど、外はまだ怖い。後ろ指さされて、白い目で見られてるんじゃないかと思うと冷や汗が止まらなくなる。
外に出なくていいと彼は言ってくれた。その言葉にいつまでも甘えてちゃいけないと思いながら、まだ甘えている。
リビングで一服して休んでいると 、鍵が開く音がして慌てて玄関に向かう。少し間を置いてドアを開けた彼にぎゅーって抱きつく。見上げておかえりなさいと言うと少し不安そうだった彼がはにかんでただいまと言った。
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