春休みの最終日、私は近所の市立図書館に来ていました。馨くんと二人で図書館デート、というやつです。環がついてきたいと駄々をこねそうでしたので、環には内緒で来ています。今ごろは涙目になっていることでしょう。今日も今日とて、部員たちで庶民めぐりに行く予定でしたから。 この春休み中、ずっと振り回されていたのだから、これくらいの意地悪、してもいいですよね? 後ろからぬっと生えてきた腕にぎょっとしている合間に、抱き寄せらました。急なことにびっくりして、抵抗しようとした矢先に香った嗅ぎ慣れた香りにほっと安堵。抱き寄せられた拍子に落ちた本を見ると、きれいに閉じたまま落ちていました。良かった、中身が折れたりなんてことは無さそうです。ただ装丁に多少の傷はついてしまったのだろうなぁと思うと少しばかり心苦しいです。だって、とても綺麗な装丁でしたから。 耳朶を軽く填まれて、びくりと肩が跳ねました。馨くんはますます私を抱き寄せました。 どうなさったのですか。 問うと馨くんは、私の肩に顔を埋めたまま応えました。すこし聞き取りづらくはありましたが、きちんと聞こえました。 『好きって言って…』 いつになく余裕のない声で彼は言いました。それがなぜだか妙に切なくて、彼の手に私の手を重ねました。馨くんの手は骨張っていてすこしゴツゴツしているのに、肌はすべすべ。…うらやましいです。左手の薬指には私とおそろいの指輪がはまっていて、私はそれをなぞりながら少し微笑みました。この指輪渡してくれたときの馨くん、すごく格好良かったなぁ。 馨くんの望む言葉を口にしようとした瞬間、携帯がなりました。もちろん図書館ですのでマナーモードにしてありますよ。 鞄の中を手探りで探すけど、中々見つかりません。携帯は依然としてなり続けていました。うーん、電話でしょうか。やっと見つけた携帯を手にとって確認すると環からでした。なんなんですかあの人。そんなに人の恋路を邪魔したいんですかねぇ。人の恋路を邪魔する人なんて豆腐の角に頭ぶつけてなんとやらです。 『誰から?』 後ろから馨くんが画面を覗いたかと思うと、携帯を取り上げられてしまいました。 馨くんは私から携帯を奪うと、電源ボタンを押して電源を落としてしまいました。 『殿ならいいよね、』 少しぎこちない笑顔で馨くんがいいながら携帯を差し出しました。私はそれを半ば呆然としながら受け取りました。 私だってデートの最中に電話なんて、とイラつきましたが、まさかそんな。電話をきっちゃうなんて。てっきり馨くんのことですから、電話に出て二、三言話すものかとおもっていました。 不思議に思って馨くんを見上げていると、彼は眉をひそめて、なんだか悔しそうな表情で髪をかきあげました。彼の頬が赤いのですが、熱でも出たのでしょうか。 『ごめん、今ちょっと余裕ないからこっちみないで…』 馨くんはそう言って顔を腕で覆うとその場にしゃがみ込みました。 『……正直なとこ、殿たちに妬いてる。春休みだって遊んでもみんなとだし、それに殿とかの方が喋ってるでしょ。 あー、余裕なさすぎカッコ悪…』 馨くんはそう言ってますます膝を抱え込んでしまった。髪から僅かに覗く耳は真っ赤です。私も、きっと耳まで真っ赤なのでしょう。だって先程から、胸が高鳴って頬が熱いんですもの。 私は馨くんの前に跪いて、彼をぎゅうと抱き締めた。 「格好悪くなんてないです。馨くん、私は今とても嬉しいです。なぜだかわかりますか?それは馨くんが嫉妬してくれたからなんですよ」 馨くんがおそるおそる顔を上げた。私は、馨くんの目を見つめてさっき言えなかった言葉を告げました。 すると馨くんはいつもように笑って、私の額に口付けを落としました。 世界で一番好きな人 (とあるメルマガさんから配信されたキャラメをヒントに書いてみたんだが…。果たしてこれは馨くんなのか…?) |