寂しがりやの兎さん
携帯の画面を見つめながらため息をひとつこぼした。本当にどうしよう。やったところで後悔するのは目にみえている。しかしやらねば結局ごちゃごちゃしたままで、面倒くさい。はぁ。もう一度ため息をついた。
「五回目」
「は?」
「君がため息をついた回数」
いきなりなにかと思えば彼は人のため息をついた数を数えてたらしい。とゆうかそんなにため息を吐いていたのか、私。
「何悩んでるんだか知らないけど、人の部屋来てまでため息吐かないでくんない」
ごめんと素直に謝れば、彼は拍子抜けしたようなかおをした。それから、ぷいとそっぽを向いてあとで金平糖奢ってよねと言った。私はそれに適当に返しながら、今お財布にいくら入っているか思い出そうとしたが思い出せなかった。
「ねぇ、総司」
「何」
「連絡取ってない人のアドレス消そうと思うのだけれど」
「消せばいいじゃん」
簡単に言ってくれる。それができたらこんなふうに悩んだりなんてしない。高校の合格祝いに携帯を買って貰い、友人達とアドレス交換した。したはいいが、実際に連絡を取っているのはその極一部のみだ。なんというこだろう。あの頃は永遠だと思っていた友情も、今となっては桜のように儚く散ってしまったのだろうか。それが無性に切ない。何時だったか、友人の一人が言っていた。兎は寂しがり屋だから、寂しいと死んでしまうのだと。その友人曰く、私はその兎らしい。それならば、その兎はどうやって生きていけばいいのだろう。友人がなんと答えたかは、もう憶えていない。
「ねぇ、総司、寂しがり屋な兎さんはどうやって生きたらいいのかなぁ?」
「そんなの知らないよ」
「私ね、友達にお前はその兎さんだって言われたの」
「……(話聞けよ)」
私にそう言った友人は、今入院している。知らなかった。教えてほしかった。ポタリ、涙が零れた。隣に座っていた総司が、ため息をついて立ち上がった。何処に行くの。涙に濡れた瞳で見上げれば、無視された。彼は黙ったまま部屋からでて行った。
ポタリ、ポタポタ。
涙が零れ落ちては、カーペットにまぁるい染みを作る。呆れられてしまったのだろうか。
暫くそうしていると、がちゃりとドアノブを回す音が聞こえた。次いで、足音。不思議に思い、顔を上げれば、差し出された缶ジュース。しかも私が一番好きなみかんジュース。ありがとうと礼を言って受け取る。
あれ、開かない。
何度も挑戦するが、一向に開く気配を見せない缶ジュース。はぁ、とため息を零すと同時に缶ジュースが隣へと攫われた。
「さっきの質問の答えだけど、」
驚いて其方を向けば、彼の翡翠色の瞳と目が合った。
「その兎さんは、僕に依存しちゃえば良いとおもうよ」
プシュッと小気味の良い音を立てて、開いた。「ん」と、なんでもないように彼が、缶ジュースを差し出す。
「僕、随分前から君に片思いしてるんだけど」
差し出された缶ジュースを受け取って、こくり。一口飲んだ。まだ頬を桃色に染めたままの彼に返す言葉なんて決まってる。
「、私、も」
Q.寂しがり屋の兎さんはどう生きてげばいいですか?
A.僕に依存したらいい。そうしたらもう、寂しい思いはさせないから。