赤司に「よいお年を」と言う
「今日はもう上がっていいよ」
今ばかりはチーフが神様に見えました。ありがとうチーフ!年明け四連勤とかマジふざけんなくそ野郎とか思っててごめんね!
駅に着くと、ミスドが閉まっていた。あれ、と思って少し急ぐと駅に併設されてるビルはもう閉まっていた。大晦日だからかなぁ。残念、ケーキ買って帰ろうと思ってたのに。コンビニならやってる筈だし、家の近くのセ●ンに寄って帰ろう。
9番ホームに行くと、懐かしい顔がいた。中学のときに一度だけ席が隣になったことがある赤い髪の彼。たった一度、言葉だって満足交わしていないのに、あの鮮烈な赤は私に焼き付いていた。鮮烈に通り過ぎていった彼は、何を思いバスケをしていたのだろう。友達に連れられて一度だけ試合を見に行った事がある。キセキの世代と呼ばれた彼らは、つまらなさそうにゲームをして当然のように勝っていた。見ていた私も、ちっともつまらなかった。
彼──赤司征十郎はホームに一人きりでぽつんと立っていた。こうも人が少ないということは、ちょうど電車が行ったあとなのだろう。私はなんとなく赤司の隣に並んだ。
久しぶりだね、と声をかけようとして止めた。三年のとき同じクラスで、一度だけ席が隣になっただけの女なんて覚えているわけがない。ほう。息を吐くとメガネが白くなった。なんでだ。しかたなくメガネを外して、レンズをハンカチで拭いた。あいにく私はメガネケースは持ち歩かない派だ。
隣から押し殺した笑い声が聞こえて、少しムカついてにらむと赤司はすまないと言った。だったら笑うなよ。
「赤司ってそんな風に笑うんだね」
「俺だって笑うよ、名前さん」
「覚えてたんだ」
あんまり驚いて、思わず声が大きくなってしまった。あたりを見回すと、遠くの駅員さんは知らんぷりしていた。
「あんなこと言われたらね。ああ、正確には違うね。君の目が言っていたんだお前のバスケはつまらないね≠チて」
「……そうだっけ」
そうだよと言って、赤司は懐かしいものを見る目をした。中学時代を思い出していたりするんだろうか。
「それにしても自分の吐いた息でメガネってくもるんだな」
「今すぐ忘れて」
もうもうちらほらと人が増えていた。そろそろ電車が到着する時間だ。
「当分は忘れないかな」
「赤司が意地悪だったなんて……。詐欺だ」
「ひどいな」
電車がプァーとうるさく鳴きながらホームに滑り込む。
電車の中でも私たちはたわいもない話をした。中学のときの思い出話や、それからの話。赤司は今お父さんの会社で勉強中なのらしい。行く末は社長さんか。すごいね。そうでもないさ。ふぅん。そういえはさ、駅のちょっとさきにある喫茶店知ってる?いや、知らないな。あそこの紅茶とケーキが絶品なんだ。へぇ、今度行ってみようかな。少し込み入ったところにあるから、迷わないようにね。……番号を交換しないか。いいよ。ひょっとして方向音痴とか?まさか。エトセトラ、エトセトラ。
そうこうしているうちに、降りる駅に着いてしまった。
「じゃ、また今度ね。よいお年を」
「よいお年を」