私、生きてますか?
※作中に手首を切る描写がありますが当サイト決して推奨していません。自殺、だめ。絶対
手首に剃刀の刄を縦に添えた。
ぐっと押さえ付けて、ゆっくりと引く。
剃刀の刃が柔肌に食い込んで、赤い細い線を引いた。
すぐに赤い点がぷっくりといくつか浮かんで、それは限界まで大きくなると手首を伝って、排水口に呑まれていった。
私はそれを、なんとなく眺めていた。
リストカットしているのにおかしな話だが、私は別に死にたいわけじゃなかった。だからいつも、傷口は浅い。ただなんとなく、私は生きているのかと疑問に思っただけだった。赤い血が手首を伝うのを見て、私はようやく、自分がいきているのだと実感するのだ。
シャワーが、雨みたいに降ってくる。おかげで髪もスーツもビチョヌレだ。
唐突に雨が止んだ。
代わりにげんこつが降ってきた。
「何やってんだ、このばかっ」
咬噛だった。
咬噛が、私の肩を掴んで揺らす。真剣な目をして、何でこんなことをしたのか、何かあったのかと問いただす。
「こーちゃん、痛いよ」
「…俺は今、怒ってる。なぜだか分かるか?」
「手首、切ったから」
「そうだ。なんで切った?何か、つらいことでもあったのか」
ううんと首を横に振ると、咬噛は眉を寄せて怪訝な顔をした。わからないと、その顔が言っていた。すこし肩の手が緩む。
「じゃぁなんで」
「私、生きてるのかなって」
「……」
あ、ますますわけわかんないって顔だ。
「毎日シュビラの言うとおりに生活して、私生きてるのかなぁって。私が殺した潜在犯たちと同じように赤い血が流れていると、安心するの。私も生きているんだって」
咬噛は俯いて黙り込んだ。そして唐突に私を抱き締めると、ばかと言った。
「おまえは生きてるよ」
私、生きてますか?
2013.03.16.