最近はDIOが食糧の部屋の配慮をしてくれたので男装することも減った。DIOがイラつくから楽しかったのに。最近の格好はフリルブラウスにプリーツスカートをやめてショートパンツを穿いている。DIOはなにも言わないがエンヤ婆の目がいつもより煩くなった。外では普通の格好なのに、古い人だなあと思う。 そんなことはさておき、今起こった出来事をありのままに話そう。 あたしが何かと首元を見せてさっさと自分を食えとさし迫ってくる事に、DIOが本格的にお咎めを開始した。ベッドの上で正座、真正面に腕を組んでお説教モードのDIO。ちなみに半裸。もう慣れたから何も言わないし思わないのであった。 「いいだろう。私がなぜお前の血を吸いたがらないか教えてやる」 「はい」 「吸血鬼の血は不味いからだ」 初耳だ。 「さらにお前は非処女だからな」 「処女厨が…」 「こら下品な物言いをよせといっている」 「処女の血は確かに美味しいけどさ、そんなに変わるもんなの」 「鮮度が少し落ちるくらいで変化は微々たるものだ。それよりも、吸血鬼の血はとにかく不味いのだぞリリィ」 「そんなに不味いの?」 「試してみるか?」 鋭く尖った吸血鬼特有の犬歯で傷を作り差し出された、血の滲む人差し指を見て、DIOを見る。あたしはにっこり笑い、そのDIOの肩に手をかけた。 「指? だが断るッ!」 「KUAAAAA!!!? 貴様ッなぜ首に噛み付くのだッ!」 面白半分に飛びかかり、筋肉のせいで固く歯が通りにくいが勢いよくかぶりついたので躊躇わず血を吸う。ごくりと飲む。すぐに口を離す。 不味い。そこそこ不味かった。 「うっわ、マズゥ。飲めない事はないけどそもそもゲロ以下の野郎から搾りだされた体液とか心境的に飲めたもんじゃなかった」 「変な言い方をするな。だから不味いと言ったろう、あとなぜ指でなくわざわざ首に噛み付いた」 「確かにDIOはクソ不味いけどあたしは女だし半分人間入ってるから、案外ブルーチーズ的な感覚で美味しいかもしれないわよ」 「貴様色々と話を聞いていないな?」 とにかくだ、不味いものを飲む気はない。だから今後首元を見せ挑発しても無駄だ。と、ただ単にそれが言いたかったらしい。…肩に噛み付いたのはそこまで怒ってないのか。もう一度正座をさせられる。 「その色気もない首元を不用意に見せてくるのも禁止だ。少女のなりをしている以上そういう下品な行為は幻滅の対象だからな。私がまず疑われるのだ。私がッ、宜しくない教育をしているのではと有らぬ疑念がかけられるのだぞ。わかっているのかリリィ、こら、話を聞けリリィ」 「きいてるわよ…あんたがさっさと殺してくれたらそんな事もなくなるんじゃないの?」 「この際はっきり言ってやるが、色気がない分目の毒だ」 「なんで無視するのよちょっと、だれが毒ですって」 噛まれた首を押さえて唸る彼は、「そんな事より」と気怠そうに話題を転換した。 「この間話していた移動の件だが」 やはりイギリスを移動することになったそうだ。エジプトのカイロに向けて出発するが、今日から何度か移住を繰り返すことになるだろう。とDIOに言われた。そう、と返事だけ返しておく。 何の為にどこに行こうがどこに辿り着こうがどうでもいい。どこにいても同じ、あたしは死ぬまで変わらない。なんにもだ。 ──早いことに、もう一年が経とうとしていた。 変化といえば、DIOが半裸から多少何かを纏うようになったかなとかDIOの手下が少し増えたとかその程度。そもそも彼が纏うものといっても服ではなく、野球選手が着てるピチピチのアンダーシャツのノースリーブバージョンみたいなほぼ布同然だったり、ごついアクセサリーを首や腕につけまくってどこぞの古代貴族の装い(もちろん半裸)をしたりなど、結局公然わいせつセルフセクハラ歩く卑猥物には間違いなかったのだが。 そういや口紅とかもつけてたな。120歳にでもなると色々冒険したくなるのだろうか。冒険しすぎではないだろうか。どれもちゃんと様になってるから腹立つんだけれど。 生活といえば、少しあたしが昼間に遊びに行くようになったくらいでさして変わりはない。 あたしが昼間気まぐれで買ってきたりDIOのお使いで買ってきたものを、夜に持ってきて閲覧したり美味しく食べたり……食べたり。 ………いや。なんだか、その。 今の今まで何にも思わなかったのは間違いなく感覚の麻痺のせいだろう。それに今更あの初期の殺伐さに戻るつもりもあんまりないけれど、一つだけ言いたい。 女子会か。 これも変化…なんだろうか。いやこれこそ変化だろう。現に今がいい例だ。帝王などという肩書きなんて嘘のようにだらだらごろごろと。 それよりもだ、なにDIOも立派に女子力高めてるのよ。なんで化粧品の雑誌見て「新色が出たのか」とか呟いてるの。そもそもマニキュアとかもつけてるしオネエにでもなりたいのか。…というわけで今、目の前の本人にそんな風に質問したらかなり憤慨された。 「阿呆言え、誰が女男だと?私はただ美というものを追求しているだけだ」 「はぁ、美ですか」 「なぜ敬語なのだ」 「DIOは何もしなくたって綺麗なのに?」 「…」 「どうしたの」 「…教えてやろう、それは口説き文句という類の言い回しだぞ」 「だってそうでしょ。綺麗よ?顔だけは」 「顔だけとは」 「顔だけじゃない」 言葉通りだ。 しかし口説き文句とやらを言われた割には余裕に笑みを浮かべてる分、やはりあたしより長く生きているだけあるしそこそこ自覚もあるようだ。というか寧ろあたしは口説き文句を言われなきゃいけない側なんだけど。まーいっか、言われたら言われたでDIOの頭がおかしくなったのか疑うレベルだ。 雑誌を読んでいると、DIOが怪訝な顔でこちらを覗き込んできた。 「しかしお前は化粧っ気がないな。今年で18だろう、少しは覚えようと思わんのか」 「しても見せる人なんてどこにもいないからいい」 「僻みを理由にするな。全く…来い、私が見ててもやもやするッ」 「うぐッ」 下顎をがっしりと掴まれそのまま引っ張られる。顎を掴むな、顎を! そのまま抵抗も馬鹿力の前では虚しく、ずるずるとドレッサーの前に連れていかれた。後はお察しの通りだ、みっちり教え込まれた。アイシャドウとかアイラインとか、なんかよくわかんないけど女の人って大変だなとつくづく思う。化粧を施された後に鏡を見たら驚いた。結構変わるものだ。なんというか、偽物のあたしデビュー!みたいな。ていうかなんで男がそんなメイクアップテクニックを知ってんだと叫んでやりたい、なんなんだこの吸血鬼は。 暇人の厄介事 (最初に比べたら随分楽しげにしている吸血鬼) ────── 友達より対等な関係 楽しそうに小娘に化粧施してる帝王微笑ましい |