帝王観察日記 | ナノ


 
「おいで、ペットショップ」

 新しく何人か仲間が入った。最近ではこのペットショップという鷹と、ヴァニラ・アイスという男。共通点というか、どちらも厳つい顔をしていた。
 なにやら前に入ってきた8人とペットショップを合わせて、エジプト9栄神とかいう新しいジョースター討伐隊をつくったらしい。因みにヴァニラはタロットカードの暗示に唯一組まれていないスタンドを持っている、所謂“狂信者”の類の人間だった。DIOの側からよっぽどじゃない限り離れようとしない分、今までの部下の比ではない心酔っぷりである。まああたしが部屋に行った時は嫌々ながらも自分から部屋から出てくれるのだけれど。
 バサバサと羽音を立てて飛んできたペットショップが、座ったままのあたしの腕にとまる。普通防具なしで鷹にとまられたらその鋭利な爪で腕が傷だらけになってしまうのだが、あたしは回復するし防具もめんどくさいのでつけていない。ペットショップは彼なりに気遣ってくれているのか、腕にとまるときもそっと足で掴んでくれる。悪い子じゃあないのよね。
 よしよしと顎を撫でると、気持ち良さそうに目を閉じた。見ての通り、彼との仲は比較的良好だ。

「あれ、あなたこんなバンダナつけてたっけ?」

 ペットショップの首にかかるハート柄のバンダナに目が行く。DIOかな、と呟いたら彼がクエーと鳴いた。やっぱりな…それはそうとハート柄ってあんた。

「気に入ってる?」

 またクエーと鳴く。主から貰ったものはなんでも嬉しいのだろうか。ヴァニラもいつの間にかハートのカチューシャつけてたし。相変わらず飛び抜けたシュミをしてる帝王だこと。
 するとペットショップが、あたしの赤いリボンをちょんちょんとつついた。ああこれ?とリボンを摘まむ。

「似合ってるかな」

 クワーと鳴く。とりあえず似合ってるって言ってくれてるのだと解釈することにする。向こうでテレンスが呼んでいる、お昼ご飯が出来たんだろう。

「ペットショップは、DIOに拾ってもらったの?」

 コクリと頷いた。ペットショップは賢い。人の言葉がちゃんとわかっているのだ。

「そう、あたしと一緒だね」

 すると後ろから足音と杖の音が聞こえた。エンヤ婆ではない、彼女はもう死んだから。

 ──エンヤ婆に、肉の芽を入れたのだそうだ。
 息子を失った悲しみに狂い、手に負えなさげなのは目に見えていた。あれだけのスタンド使いに肉の芽を入れるのをDIOは躊躇していたが、やむ終えずに。エンヤ婆は自分が狂っていた事もすっかり忘れて、ジョースターを討つ為に館を出たのが最後。やはり肉の芽は仇となったみたいだ、いろんな意味で。

 エンヤ婆の直接的な死因は、DIOの情報を喋ろうと…裏切ろうとして肉の芽が作用したからだ。そんな風な事をイエローテンパランスのダンがさも愉快そうに報告してきたので、ご苦労様と言って早々に電話をぶち切ってやった。ああいう人の死を面白がる奴は嫌いだ、さっさとジョースターに戦闘不能にされればいいのに。まあその後願いが叶ったのか、すぐにダンはリタイアしたのだけれど。

 どんな人なんだろう。ジョースターの子孫って。
 ちょっと様子を見てくるのも悪くないかもしれない。──なんて思いながら、その足音に後ろを向けば、やはりアジアンラフスタイルの全盲の青年がこちらに歩み寄ってきていた。

「ンドゥール、どうしたの」
「話し声が聴こえたので、少し」

 コツコツと杖の音を立ててあたしの近くまで寄って、隣に座る。ペットショップと首を傾げていたら、ンドゥールは唐突に話し始めた。

「きみらも、私と一緒なんだね」
「……あら、盗み聴きとは流石DIOの部下だわ」
「申し訳ない…聴くつもりはなかったんだが、人より耳が良いもんで」

 本当に申し訳無さそうに、ぽりぽりと頭を掻く。何度も思うが普通にしてれば人の良さそうな青年だ。小さい頃からスタンドを使えたから犯罪だってなんのそのでしてきたらしいけど、なんでこの人がDIOの部下なのかがあんまり分からなくなるときがある。

「ンドゥールはなんでDIOに従うの?」

 彼は、フフフと含み笑いをした。

「悪には、悪の救世主が必要なんだ」
「救世主ぅ?」
「そう、救世主」
「ンドゥールはしりとり的に救世主だと思うわ」

 すごく困った苦笑いされた。ジョークが通じないのは中々つらい。

「きみはそうは思わないのか?」
「そーね、あなたには悪いけどちょっと思えないかも」

 君も助けてもらったんだろう?と言われたので、あなたのDIOへのイメージを崩すようで悪いけれどと前置く。

「あいつは確かに美しいけど、あんたが思ってるほど強くはないわ」

 力がという意味ではなくてね。
 それにあっちはあたしを助けただなんて思ってないし、ただ暇つぶしのために掬い上げられただけにすぎない命なのよ。
 ンドゥールはふむと唸って、にこりと笑った。

「この世界には、痛みを経験した者にしかわからない痛みがある」
「…、」
「だからこそだ」
「あいつは、あんたを助けただなんてこれっぽっちも思ってないかもよ?あたしの時とおんなじように」
「それでいいのさ」

 それでも私は確かに救われているから。

 全盲の目はふわりと笑って、何処かに行ってしまった。…テレンスがあたしを探しているようなのでそろそろあたしも行こう。

「救われてる、か」

 痛みを経験した者にしか解らない痛み。それを十二分に知ってるからこそ彼の元々巧みな話術は更に真実味を増して、悪のカリスマだの帝王などと名前だけが一人歩きして。笑えないくらい面白い。

 じゃあその救世主とやらは、誰に救ってもらえばいいんだ。
 きっと彼は救ってもらえないのを知ってるから、自分で自分を救う為に『天国』を宣っているのだろう。
 なんということもない、滑稽な話だ。







メーデーメーデー
(救世主は救われない)



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ここらへんまできていわずもがなですが
個人的解釈なのであしからずなのですぜ

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