天国への行き方を模索してもう暫く経つ。ジョースターも勘繰り回っていることだから、はやく方法を見つけなければいけない。 今のところ重要なヒントを握っているのは、あの少女だ。 リリィ。 彼女は私が知る者の誰よりも最も天国に近い女である。──それは死に対して恐怖をしていない、“覚悟”をしているからだ。自分に起こりうる全てを見据えて、この世界ではない何処かを見ている。 彼女ほど私の理想とする『天国』に近い者はいない。 自分を殺せとあの娘は言う。彼女にとっての絶対的な死を象徴するこの私を前にしてなお、どんな言葉で脅しても、どれだけ牙を剥いても、おくびにも出さない。恐れない。はじめの頃は望まれるままに死の淵の淵まで追い詰めてやったこともあったが。この三年間、リリィの態度に変化が現れることはなかった。 殺せと、いつも言う。 死への覚悟があるからこそ、気高くあれる。ああ、きっと彼女が見ているのは間違いなく私の理想の『天国』なのだ。 恐怖のない世界、絶対的な安息の世界。母が熱に浮かされたうわ言のように言っていた、あの世界。天国を、見なければ。その時と同時に私は真に頂点の存在として立つことができるのだろう。 そう、その世界に近づきそれを見るためには、準備をしなければいけない。きっと長い時を使う事になる。まあ私には関係ないことだとは思うが。 …リリィ。 私のどうしようもない本性を見ても、相も変わらず飽きる事なく傍に居続ける、これまたどうしようもない性格をした娘。 考察として、彼女の存在は天国へ行くための必要な材料…ないしは切符、なんてことはないのだろうか。これはあくまで考察だから本当にそうなのかはわからないが。一体私は彼女をどうしたいのだろうか。あの忌々しいジョナサンによく似た、年端もいかぬあんな娘を。 ふと、左手薬指のネイルを見る。青いベースに、ガタガタになっている赤い模様。いつ見ても下手くそだが、ただ懸命さは伝わってくる。見るたびに、少し和やかな気持ちにさえなる。 ──何を考えてるのだか。あんな小娘ごときに。 よく咄嗟の思いつきなんぞであんな血迷った事をしたものだ。全く、思い出すだけで肌が粟立つ。“あわよくば”……そんな気持ちがあったなどと、おぞましいにも程がある。愚鈍な小娘になにを求めているのだか。あの絵本の猫と白猫の事なんてあんな時に思い出すんじゃあなかった、俺はあの猫ではないというのに。馬鹿馬鹿しい。 猫はどうやって白猫にこころを伝え求めたのだろうかなどと。 似ても似つかないくせに。 愛すなんて馬鹿げた人間の勘違いから生まれたもの。愛というのはただの言葉。単なる概念。人が恋だと信じる一時の激情も、所詮脳内を駆け巡るホルモンの影響に過ぎない。あいつの役割はごっこ遊びのためなんぞではない。そんな生ぬるい存在など無駄だ。実に無駄でしかない。 …愛せても、愛されなければ愛さない方がましだ。 だから無駄なのだ。 無駄のくせ、この薬指の塗料を落とすための液体を使えずにいる俺はなにをどうしたいのだろう。 こんな無駄な思考は掻き消してしまわなければ。 薔薇の深層心理学 (白猫は猫に天国を見せてくれたのだろうか) ────── 今までそんな経験なかったからいやいや認めねーかんなってなってるしまず右も左も分かってない系 |