最近DIOが夜中にエンヤ婆となにかを話し込んでいる。 一方あたしは、先日変な弓矢の鏃で指を切ってしまったことについて悩んでいた。 指自体は問題ない。たとえ半分でも吸血鬼なので、直ぐに治ってしまった。問題はそこではない。 ──指を切ってしまってから、DIOやテレンスの周りにたまーに変な悪霊が見えるようになってしまったのだ。だからあのエンヤ婆ならその事について何か分かるかもしれないと思い、煙たがられる覚悟でDIOの部屋にいるであろう彼女の所へ向かおうとした矢先…この状況。 あたしは今DIOの部屋の真ん前でドアの隙間から中を伺っている。伺ざるを得なくなっている。どっちにしろ宜しくはない状況だ。 最近DIOとエンヤ婆が夜中に話し込んでいる。それはあたしが見える悪霊の事についてなのだと、今になって知った。 エンヤ婆と話すDIOの背後にくっきりと、あの黄色い霊の姿が見えた。あたしに比べてエンヤ婆は驚きもせずにそれをまじまじと見て「よいですかな、DIO様」と実にゆっくりとした口調で、確かめるように告げた。 「この“スタンド”は心の在り方を具現化した力…貴方は“時を統べる”という最強の力を授かった選ばれしお方じゃ……スタンドを自分の力として使役する方法は一つ、自分にはこの力が扱えて当たり前だと思うのですじゃ…!」 心の力によって制御されるスタンド。故にスタンドの存在に確固たる自信を持っていれば持っているほど、スタンドはより自分に馴染み思い通りに動かす事が出来る…という。 あの霊はスタンドというらしい。テレンスのそれもスタンドというのだろうか。 「スタンド…ジョナサンの身体によって生まれた俺のスタンドか…」 「ただ、奴の身体が貴方様の邪魔をしているのもまた事実でございますじゃ」 よく黄色の霊…スタンドを見たら、身体にうっすらと紫色の茨が巻き付いているように見えた。拘束されている?俗にいう緊縛プレ…いやなんでもない。 「何…気に留めるような事ではない。直にこのDIOの力があいつの全てを支配する、現に俺によって使役されつつあるハーミットパープルが俺の邪魔をしていられるのも、今のうちだ」 DIOの翳した右手に紫色の茨が生える。と、DIOが何かに反応を示した。 「…ドアの向こうで誰かが見ているな」 しまった。こうなれば逃げるのは返って分が悪い。 なんにせよ、暫くのうちはこのスタンドとやらが見えないということにしておかないと、色々面倒な目にあってしまいそうなことはよく分かった。用心しなければ。 「そこの奴、姿を見せろ」 ドアの隙間から、出逢ったばかりだった頃のそれのような…背筋をも凍る獣の冷徹な目が、見える。でもやはりあたしには怖くはなかった。 「あたしだよDIO」 キィ、とドアを開けると。その目は雪が溶けるように一気に緩まった。 「…お前か、なぜそこにいる」 「寝ようと思っておやすみを言いにいこうとしたら、入るに入れなさそうな空気だったから。話が終わるまで待ってようと思って」 「そうか、今の話は聞いていたか?」 「よくわかんなかったから半分聞いてなかった」 「だろうな」 くすくすと笑う。DIOに「下がっていい」と言われたエンヤ婆は、あたしを睨みながら部屋を出ていった。 「…お前はエンヤに何かしたのか?」 「なーんにもしてないわよッ 勝手にあっちがあんな風にしてくるの」 「…」 ようわからんな。と彼女が出て行ったドアを眺めるDIO。まああんたのせいなんですけどね。あたしは優しいので言わないでおいてやる事にする。 「で、なんだったか」 「おやすみDIO」 「そうだったな」 大きな手で髪を撫でられて。おやすみ、と言葉を交わし部屋を出る。直前に。 「ねー、さっきエンヤ婆が言ってたスタンドってなに?」 「…それについてはまた今度教えよう」 「約束?」 「約束だ」 「約束ねっ おやすみ!」 「おやすみリリィ」 部屋を出て、鏃で怪我をした指を垣間見る。傷はとっくの昔に治ったが、少しだけそこが熱を持っているのは確かだ。 不可解 (はやく治んないかなあ、この指) ────── すっかり警戒心皆無DIOさま。 |