帝王観察日記 | ナノ


 カイロにむけて移動を開始して三回目。最近になってDIOがアウトドアになってきた。夜というのは黒の人間が蔓延る世界、そこへDIOは足を運びにゆく。なんでも友人探しをしてるとかなんとか。友人といっても部類はそんな爽やかな青春のかおりを纏うものではない…いわゆる悪友、だけど。

「難しいものだな」
「むしろあんたに友達つくる気とかあったのね」
「どういう意味だ」

 DIOの性格からして意外だ。……一人では駄目だと気付いたのだろうか?だとしたら大した成長だと思う。
 うまいこといくコツはないのかと聞かれたが、如何せんあたしも友人は少なかった身なので的確なアドバイスをすることは難しかった。なんというかうまくいくいかないを話し合ってる時点で色々悲しい。荒んだ人間時代が虚しくなってくる。

「でもあんたならほっといてもそこらの小悪党が寄ってくると思うけどね」
「それではだめなのだ。本音を分かち合う友を作らなければならない」
「なんで?」

 今後のためだ、とDIOは言った。…なんか隠してるなとは思ったけど、あたしに言わないのならこちらが聞く理由もなし。黙っておくことにした。

「…悲しい話、本気で心を許した友人などつくったことがないからな」
「奇遇ね、あたしもよ」
「似ているな」
「あんたみたいなのと一緒っていやね」
「まあそういうな」

 嘘。ほんとはあんまりいやではない。でもこんなことは絶対に言ってやらない。死んでも言わないのだろう。…死ぬ間際くらいならいいかな。

「その人と友達になりたい理由を言ってみたらどうかしら」
「ほう、まず本音から話題を切り出すのだな」
「こっちが本心晒せば、あっち側も気を許さざるを得ないと思うの」

 120歳の帝王とあたしはなにを話しているのだか。しかも相変わらず女子会in女子高生の部屋スタイルで。

「っていうかこの間見て思ったんだけど、DIOちゃんと服着るようになったんじゃない」
「着ているではないか」
「普段のは服じゃなくて布だから」

 まあ服も服で黒革にラメとファーがぎっしりあしらわれた派手の一言のような服だったが。だからお前何歳だ。似合うけども。

「リリィ」

 前に外に誘ってくれたことがあっただろう、と突然の話題にはてと首を傾げる。

「…貴様もしや忘れたのか」
「あっ、思い出した。あったわねそんなことも」
「そこまでこのDIOと外を出歩いてみたいのなら、今なら叶えてやらんでもないが?」
「…」
「おいなんだその苦い顔は」

 ふふん、と余裕綽々得意気な顔。

 ムカつく。
 やっぱりDIOはDIOだった。

「あんたがどうしても行きたいのならいいわよ」
「相変わらず生意気だな…」
「……今のうそ。行きたい」

 まあ、すこしだけ癪だが、一回くらい素直なことを言ってみてもバチは当たらないだろう。するとDIOが黙り込んだ。どうしたのと顔を覗き込むと「なんでもない、なんでもないぞ」と呟きながら無我の境地のような表情をしていた。

「変なDIO」
「…」
「変なのはいつもか」
「おい」


****

 夜店は今日も繁盛していた。昼間とはまた違った雰囲気には何度来ても胸が躍る。隣のDIOはやはりいろんな意味で注目を浴びていた。…抑えたとはいえやはり服装が派手すぎる、ホストかっつの、なんなんだもうこのじじいは。

 道行くお水の女性が「モデルかなにかかしら」とヒソヒソ話をしている。モデルでしょうか、いいえ、満123歳自称帝王の吸血鬼です。売店のアイスを食べながらぶらぶらと歩く。「面白いものだな」と割と楽しんでいるようだ。
 かと思ったらアイスをじっと見てきたので、何?と聞いたらうまいのか?と聞かれた。一口あげた。DIOの一口が大きかったから軽く殴ってやった。

 家族でもこんなことしたことなかったな、とふと思う。
 家族なのに。
 今となってはどうでもいいけど。

 今のほうが生きてるのが楽しく思える。このままの気持ちで死ねるとなったら、あたしはよほど幸せなのだろう。甘美だ。問題はいつ死ぬかなのだが。

「リリィ、あの店はなんだ」
「あれは質屋の流れもの売り場よ」

 まだもうしばらくは、この男の隣にいてやろうかとも思う。

「いろんなものがあるな」
「そうね」

 売店の前ではよれよれのお爺さんがうたた寝をこいていた。…そんなんでどこぞのジャンキーに万引きされても知らないわよ。ふと動きを止めたDIOはじいっと何かを見ていた。視線の先は懐中時計だった。

「DIO?」
「…いや」

 結局返さなかったな。とぽつりと呟く。よくわからないから聞き流す事にした。

「…それよりリリィは何かみつけたのか」
「んー別に」
「お前は赤が好きなのか?」
「え?なんで?」
「先程から赤いものばかり見ているぞ」

 このDIOの目は誤魔化せん、と得意気に笑う。何ゆえに得意気になるのか。それは置いといてだ。DIOはおもむろに赤い宝石のブローチを摘み襟に飾られたリボンの中央に添えた。フリルのついたクラシカルブラウスと白いリボンによく映える赤。

「ふむ、似合うな」
「…」
「お前には赤がよく似合う」

 多分赤い目だからかな。するとDIOはそれを元の場所に置いて、あたしの手を引いた。あれ、どこ行くんだろう。

「よし、ならばちゃんとしたものを見にいくか」
「えっなんで」
「なんでとは?」
「これでいいよ」
「出がよくわからん安物だぞ」
「これがいい」

 さっきのブローチを一瞥してから、暫く考え込んで欲のない奴だな…と呆れたように言われた。いつの間にか眠りから覚めていた店のお爺さんからブローチを買い取り、それをリボンの中心部に飾られる。ライトに照らされたそれはキラキラと真っ赤に輝いて綺麗だ。…物質が何であれ、おまえはこうして輝くために生まれたのに、あんなガラクタの山にいるのだなんてとんでもないわよね…さあ、今度はあたしの胸元で終わりのその日まで輝いてちょうだい。そう語りかけながらブローチをひとつ撫でる。
 これにも、誰かの思い出が詰まっているのだろうか。記憶と同じように。人と同じように。どうでもいいけれど。

 一方あたしの隣であたしの手を持って夜道を歩くDIO。はたからこれを見れば親子か援交にでも見えるのだろう。ぶっちゃけこんなやつと援交してると考えられるくらいなら親子と思われたほうが100倍マシだが。彼は似たような濃い赤でブローチを見つめ、お前らしいといったららしいがな、と呆れた顔のまま一言こぼした。

「しかしなんでこんなまがいものなどが気に入ったのだ」
「簡単よ。あんたが初めて似合うって言ったものだから」
「…」

 ぽかんとする間抜けな顔をふふんと鼻で笑ってやる。随分とばかっぽい顔も出来るんじゃあないか、こんな事ならカメラでももってくればよかったかもしれない。

「そうじゃあなきゃ、ガラス玉だろうとプラスチックだろうと関係ないなんて思わないわよ?」

 もちろんそういう意味で言ったのではないのはわかっているけれど。
 でも、“はじめてのもの”を欲しがるのはどこの誰だって同じでしょう?

「あとそれにね、このブローチはかつてのあたしだった」
「…それは哲学かなにかか?」
「違うわよ。ガラクタの山に埋れて朽ちるだけだったこいつは、あたしとおんなじだったってこと」

 ──それをあんたはまた、同じように山の中から救ったのだわ。

 こう言った時の彼の顔は、どんな顔をしていたのだろうか。あたしは見ていない。

 どこか遠くで笑い声や、罵声や、歓声の混じる喧騒の音が聴こえてくる。きっと宴会かなにかでもしてるのだろう。この季節は夜風が心地いい。夜は長いようで、けれど、短かった。

 そう、すべては短いのだ。
 長い永いと思っていた時間(もの)も、それはただの錯覚で全部は直ぐに過ぎ去ってしまう。
 この臆病な帝王に出逢ってから二年も経つ。彼はまだあたしを殺す事はない。別にそれでもいい、焦らなくてもいい、どうせ短いのだから。永いようで短いこの時を隣で歩いてゆけば、必ず辿り着くものなのだから。

「ねえ、そう思わない、DIO?」

 かなり間を置いたあと、くだらない、とだけ返事が返ってきた代わりに。
 あたしの手を握る手が少し強くなった気がした。




夜は短し歩けよ吸血鬼
(それは今でもお気に入りの赤いブローチ)


──────

ともだち作りに四苦八苦する二人ってどうよ。絵面が実に貧弱貧弱ゥ

てしまあおいのThe RoseをBGMにどうぞ。選曲はなんとなくほのぼのしんみりしてるから(クソ適当)。


【追記】

ふと気になってThe Roseの歌詞を調べてみたら、なんかもうただのDIOさまとリリィでした。

爆死。

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