]]Y‐怒れる池にて狂う。 ゲート出口 「、!…」 「…なんだ、ここ」 目の前に広がる湖に近付いた途端、アズサの目付きが変わった。セキは僅かながらであったが、アズサ同様湖の異変を聡く感じ取っていた。 「…おかしい、何か、違う…」 『セキ、アズサ。怪電波はここまで届いているぞ』 湖をじっと見た後、セキは紅茶色のそれを湖から発言したルカリオへと視線を合わせた。 「さっきのロケット団……なんで奴等がこんな辺鄙な土地にいるのか、何となく掴めてきたな」 思案顔で呟く。…恐らく怪電波はロケット団の仕業だと合点したのか、彼は切迫した面持ちでアズサの背に呼び掛けた。 「戻るぞアズサ、あの土産物屋、やっぱり何か隠されて」 「待って!!!」 アズサが傍の湖を凝視したまま、叫んだ。 「……、どうした?」 「ルカリオがさっき言ってた言葉、あるじゃん…ギャラドスの声と波動が変だって…」 「……」 アズサの言葉に、頷く。 そこで何かが引っ掛かるものを覚えた。 「まさか、?」 「もしかしたらあの怪電波は───」 続きを言う前に、小さな地響きが足裏を伝わった。 「!なんだ…!?」 彼女は揺れる地面など気にしていない様子で、まるで何かに取り憑かれたかのように穴が開くほど湖を見て逸らさなかった。 「………何か……来る…っ」 押し殺すようにそう呟いた刹那、激しい水音と共に、豪快な水柱と水飛沫が水面から上がった。セキはアズサを庇うように抱き締め、両者とも目を瞑る。身の危険の気配がないことが分かると、腕を緩め、恐る恐る目を開けた。 「…!」 「、赤……!?」 そして、驚愕した。 目の前に居たのは、明らかに“異質”と見て取れる、赤い色をしたギャラドスだった。 突如舞い込んだイレギュラーに、近くに居た人々が何事かとざわめき始める。老いた老人は赤いギャラドスを見て声にならない呻きを上げた。 「ギャラドス、な…なんで」 「普通は…青だよな」 『やはり、あの怪電波は彼に影響を与える為のもののようだ』 「……赤いのはそれが原因か」 渋い顔をして「あの土産物屋…」と呻くセキ。赤いギャラドスは咆哮を上げながら、尾で水面を叩き暴れはじめた。色からしても行動からしても、明らかに普通のギャラドスではない。ざわめきが次第に肥大を示し、阿鼻叫喚へと姿を変える。そんな中アズサは一歩前進し、ギャラドスに向かって声を張り上げた。 「っギャラドス!あたしの声が聞こえる?!お願い返事をして!暴れるのをやめて!」 「ギャオォオオオオオオ!!!!!」 …繋がらない。 咆哮と阿鼻叫喚が轟く中、アズサは愕然として、小さく言葉を零した。 「? 何が繋がらないんだ?」 「…あたしは、ポケモンと“意思”を通わすことで言葉を聞き取ることができるの。けど、今…それができない」 野生ポケモンの場合、対象の感情が高ぶり周りが見えなくなる…つまり“怒っている”状態でいると、意識をリンクさせることができない。 「今ギャラドスは怒ってる……だから、彼を無傷で鎮めることができない」 「…そうか…。ならある程度攻撃して、冷静さを取り戻させる必要があるな…最悪の場合、戦闘不能にさせるしか」 その言葉にハッとした表情を浮かべたアズサは、セキを睨み思わず叫んだ。 「でも!彼には何の罪もないじゃん!!!!」 アズサ。 セキは静かに彼女の目を見て、名前を呼んだ。そんな彼を見て、自分がセキに無意味に逆上していることに気付いたのか、彼女はばつが悪そうに口を閉じた。 「だからこそだ。人間のせいでこうなったギャラドスにこれ以上被害を出させない為にも、苦しませない為にも」 「……………」 今もなお逃げ惑う釣人や数少ない住人達の叫び声が聞こえる。口ごもるアズサに痺れを切らせたのか、アズサの両頬を自分の両手で挟み込み、無理やり彼女の顔を上げて目を合わせた。 「俺だって無暗に傷付けるのは嫌だ。けど今のあいつを止めれるのは誰なんだ?」 「…!、…」 両頬を挟まれた彼女の瑠璃の瞳が、見開かれた。 「止めるぞ、アズサ。ギャラドスの為にも」 「……………、ひぇひ」 「なんだ?」 「…ひゃっき、ごめんなひゃい」 「? 気にすることじゃねえだろ」 「………」 挟まれた頬が桃色を帯びる。すると急にアズサの手がセキの腕をぱしぱしと叩き始めた。 「ひぇひー!はなひーっ!」 「は?」 『いつまでいちゃついてるですかはやくアズサを離すです!バカセキ』 「、その単語は意味合いが適合しねえから辞書で調べてから言えバカシェイミ」 ようやく両手を離してもらい、ふうと息を吐きながら形を戻すように自身の頬を摘まんで引っ張るアズサ。そして目の光を変えた二人は、尚も咆哮し暴れまわるギャラドスと、モンスターボールを構えて対峙した。 「お願いサンダース!10まんボルト!」 「行けニューラ!こおりのつぶて!」 赤白のコントラストをしたボールから飛び出した二体は、それぞれ命令された技をギャラドスに放った。 「ギャァオォオオオオオオッ!!!」 『なんだこいつ!?ギャラドスなのに真っ赤っ赤だなー!』 『な、なんででしょうか…怖いです…』 『ビビんなよニューラ、ヘタレだなあ!まあ、いざと言う時はこの僕がビシッと決めてやるけどさ!』 『ぼ、ぼくだって主の為にビシッと決めますよっ!ヘタレなんかじゃ、ありませんからね!』 アズサは二人の会話に苦笑いをしながらも、嫌な躰の緊張がほぐれる感じがした。 「よっしサンダース、でんじはで暴れるギャラドスを止めて!」 「ニューラ、サンダースのでんじはの後にれいとうビームを叩き込め!」 了解の鳴き声を上げた二匹は、地を蹴ってでんじはを浴びせ、絶妙なタイミングでれいとうビームを繰り出した。 「グゥウウウッ…!」 今だ。 アズサはセキと目配せし、頷き、サンダースとニューラを控えさせギャラドスへと一歩近付いた。 「ギャラドス!あたしの声、聞こえる?」 『…!貴様…何奴だ…?』 「こう言えば分かるかな。“姫”の称がつかぬ幼(おさな)巫女」 姫、幼巫女。 普段日常では滅多に使わないような、聞き慣れない単語を羅列する彼女に首を傾げるセキ。しかしその単語を聞いてギャラドスの表情に変化が表れたのが、彼にもよく分かった。 『…曾祖父から聞いた事のある…その名……白波の巫女か』 「そうなるかな」 『…巫女よ、何故俺は此所にいるんだ。湖の底で俺は、ただの進化のできない稚魚として過ごしていたはず…』 「貴方は怪電波によって突然躰の形と色を変えられて、精神まで混乱させられていた。覚えてない…?貴方はさっきまで暴れていたんだよ」 ギャラドスは、はてと首を傾げ、嗚呼と呻いてこう言った。 『そうだ、俺は…おかしな音を聴いた瞬間躰がおかしくなるのが分かって───』 キン、と空気が震え、電波が強まったような気がした。瞬間、ルカリオの波動で怪電波を相殺してもらっているポケモン達が、それぞれ呻きながら耳を押さえ出した。 「え…?みんな、何」 『!?、グゥッ!!?』 「、!ぎ、ギャラドス…!?」 同じく呻き声を上げて再び苦しみだすギャラドス。苦し紛れに振り下ろされた尾を、アズサはすんでの所で交わした。しかしギャラドスの動きは、よほど苦しいのか一向に静まらず悪化するばかりであった。 「オォオオオオオオオッ!!!!」 「っ、サンダース!」 『任せろ!!』 相殺の波動を強めてもらい復活したサンダースの名を呼び、攻撃を繰り出す。だがでんじはを食らったはずのギャラドスは依然として地鳴りの如く咆哮し、見境無く暴れていた。 「アズサ!!」 「っ!」 彼女の腕を引き、間一髪で振り下ろされた尾を避ける。サンダースは隣に後退し、シェイミと共に信じられないというようにギャラドスを見上げた。 『おかしいです…さっきまで、でんじはは効いてたはずなのにですっ』 「だよ…ね、いきなりどうして…」 「攻撃が効かないってことか。どうすれば、」 『ルカリオ、みー達にしたように、ギャラドスに波動を使えないですか!』 『言われなくても、今やっている…!』 既にギャラドスに向かって両手を突き出し、波動を出しているルカリオ。 ───が。 『……駄目だ、波動が…弾かれている』 「…っどうなってやがんだ…ッ」 ギャラドスの口に、光が集結し始めた。セキとアズサは刹那それを呆然と眺め、やがて強張った面持ちで目を見開いた。 「あれ、って、りゅうのいかり、」 「ギャラドス…何して…!」 それの向かおうとしている先を辿る瑠璃の眼。そこには、五歳ほどの幼い少女がいた。逃げる時に家族と離れたらしく、キョロキョロと何かを探している。ギャラドスには気付いていない様子だ。 「…ギャラドス…やめて、そんなことしないで!!!!」 「、アズサ!?」 セキの腕を離れ、少女の元へ駆け寄り、彼女を庇うようにして抱き抱えるアズサ。ギャラドスは錯乱しているのか、アズサの声は届かぬままコンマ三秒後に充填したりゅうのいかりを放った。 ドォン けたたましい爆音が、アズサ、と彼女の名を叫ぶ声を書き消し、激しい風が緋い髪を靡かせた。 爆風が収まり閉じていた目を開けるや否や、土煙の巻く中あくせくとアズサと少女の姿を探しはじめるセキ。そして先ほどと同じの自分から少し離れた場所にいた、変わらない姿の二人を捉えると、深い溜息を吐き出し胸を撫で下ろした。 『…オレとした事が、命令されていない攻撃をしてしまった』 「………っ、?…ルカリオ?」 セキの隣りではどうだんの構えを解いたルカリオが、ふと呟く。どうやらルカリオは、りゅうのいかりを自分の技で相殺したようだった。 「…悪いなルカリオ、今度お前の好きな食いもんでも作」 『それならセキ、オレに行動を命じてくれ』 「、は?」 『あのギャラドスはアズサの疎通能力ではもう静められない。それで貸し借り無しというのはどうだ』 「…俺が、お前に?」 『そうだ、ゲートに入る前にも言ったろう』 「いや、でも」 オレを使え。 再度そう言うルカリオに、彼は困惑した。何せ生きる伝説のポケモンだ、自分が命令するよりも独自で行動させた方が有利なのでは。するとその言葉にルカリオは首を振り、青灰色の目で彼を射抜いた。 『オレは、命令されていない攻撃をするのは余り好きではない』 まあ例外はあるが。そう口にして、少女の怪我を確かめるアズサを見、彼女が取り込み中であることを示唆する。 『…今の彼を特殊攻撃で倒すのは無理だが、物理攻撃…かくとう技でなら倒せる。お前の決めたやり方でオレを使え、きっと上手くいく、保証しよう』 テノール調の声が空気を震わせる。ルカリオが、セキを一瞥してからギャラドスを見上げ構えた。 「………本当に、俺のやり方でいいんだな」 『ああ、頼む』 「分かった。行くぞ…ルカリオ、間合いを詰めてにどげり!」 『了解』 一瞬で間合いを詰めたルカリオは、ギャラドスの腹部ににどげりを打ち込んだ。 「グギャァアアアアァアアッ!!!!」 『お前の相手はこっちだ』 こちらを見たギャラドスの目が、躰と同じように赤く染まっている。それを見て、背筋に嫌なもの(人はそれを悪寒と言う)が走った。…このギャラドスがさっきまでのギャラドスではないことを感じ取らざるを得ない。まるで何か悪いモノに乗っ取られたようだ。 唇を噛む。 「グォォオオオオオオオオオオオッッ!!!」 「ルカリオ、ギャラドスのりゅうのいかりを避けてもう一度にどげり、その後間合いを取って次の攻撃を見切れ!」 りゅうのいかりを避け、にどげりをかます。その後すぐに間合いを取り、振りかざされたアクアテイルを避ける。…その時ギャラドスに出来た隙を、彼は見逃さなかった。 「今だルカリオ、きあいだま!!」 ルカリオの両手から放たれた衝撃弾がヒットする。ギャラドスの怒号が鳴る中セキは畳み掛けるように彼に指示をした。 「続けてインファイト、一拍おいてばくれつパンチ!」 地面を蹴り飛び上がり、ギャラドスの腹にインファイトを叩き込む。湖に落ちないようその腹を軽く蹴って軽やかに宙返りをしながら着地し、もう一度飛び上がりばくれつパンチを赤い体躯にめり込ませた。 「体力、大丈夫かルカリオ」 『伊達にアズサの手持ちじゃないからな、全く問題ない』 「そうか、良かった」 「…」 微かに笑むセキに、ルカリオは改めて彼の変化を垣間見た気がした。以前までの切羽詰まり精神が荒れていた姿は微塵も見当たらない。彼女がセキに与えた影響は大きなものだったのだと実感する。 …まあそれは、彼女にも当てられる事なのだが。 ルカリオがそう思考している間にもセキは顔を引き締め、ダウン寸前のギャラドスを見定めた。 「次で最後にするぞ、はどうだん」 『了解』 セキの指示に従い、両手を構える。彼の手の中に、きあいだまとは似て非なる、青い波動の球が生まれる。いつもの大きさより一回り大きくなったそれは、彼の「破」の声で手から勢いよく放たれた。 ドカン はどうだんが当たったギャラドスの顔あたりに煙が生じる。直に巨大な体躯が力無く傾き、激しい水音と飛沫を上げて湖に崩れ落ちた。 「……」 『倒したな、セキ』 「…ああ」 浮かない顔で、水面に浮かぶ目を回したギャラドスを見つめるセキ。ふと後ろから声がしたかと思うと、アズサが庇った少女の母親らしき女性が、半泣きで少女を抱き締めていた。 それを遠巻きに眺めるアズサに近付き、彼女と一緒に親子を見つめる。 「ガキの親、見つかったのか」 「そうみたい、…良かったね、お嬢ちゃん」 「うんっ!ありがと、おねーちゃん!」 母親は少女と手を繋ぎ、二人に何度もお礼を言った。 「本当にありがとうございます…!なんと申し上げれば良いか……私に、何かお礼をさせて下さい」 「いえいえ!お礼なんていいんですよ。……ただ、その代わりと言ってはなんですが」 アズサは、神秘的な笑みを浮かべて少女の母親を見た。セキにとっては、久し振りにみる笑い方だった。 「───この先は、その手を放してはだめですよ。絶対に」 「、!?」 アズサの声の変わりに、不意に親子の背後から聞こえた男声。 驚きの眼差しで声のした方見ると、そこには、セキとはまた違った赤色(多分彼のほうが明るい色をしているだろう)の髪を逆立てて黒マントを着た、中々派手めの男が、カイリューの隣で整った笑みを浮かべていた。 「……え、」 「君はそう言いたかったんだよね?」 「あ、………は、い」 その後、母親は子供としっかりと手を繋ぎ、一緒に帰っていった。 アズサ達と、カイリューと男性がその場に取り残される。するとアズサが何とも気まずそうに、赤髪オールバックの男性に声を掛けた。 「……あのー」 「いやあ突然済まないね!俺はこのあたりに流れている怪電波を調べていたものだ。……君らは…アズサちゃんとセキくんで合っているかな?」 アウェー感満載の派手な服装と、髪と、異様なキラキラオーラを放つ男が何故自分達の名前を知っているかとても気になったが、「怪電波」の単語に強く反応したのが先だった。 …そして彼はそれをしかと感じ取っていた。 「…なんであたし達のこと知ってるんですか?」 「ああそれかい?ナナカマド博士とは知り合いでね、白波の巫女の噂もよく耳にしていたからだよ。セキくんはジムリーダー達の噂話から」 「……随分と顔が広いんだな」 「まあね。それよりあの女の子を助けてくれてありがとう、本当は俺が真っ先に飛び出して彼女のヒーローになりたかったんだけど立て込み中だったもので。感謝してるよ」 笑顔のままこれまたアウェーな事を喋る彼に、二人は合点した。 彼は生粋のロリコンに違いないと。 「…、で…用はなんだロリコン」 「ちょ、酷いことを言うな…俺はフェミニストなだけだよ」 「え、ロリコンさんはあたし達に用があったんですか」 「そんな名前みたいに言わないでくれない!?それよりその言い方地味にグサッとくるよ!」 一通りツッコミが終わり、ロリコンという残念な呼ばわりをされた彼は改めて自己紹介を始めた。 「俺はロリコンではなくワタルっていうんだ。どうやら俺と目的が一緒の様子の二人にある協力を頼みたくてね」 「…協力…ですか」 「また変なのに捕まったな」 「そーだね、どうしようか」 「君らさっきから酷すぎやしないかい、お兄さん泣いちゃうよ?」 涙目で引きつった笑いをするワタルと言う男は、倒れたギャラドスを一瞥し慌てて顔を引き締めた。 「この辺りで、ロケット団が怪電波でギャラドス…いや…コイキング達を突然変異させて何かよからぬことをしようとしてるかもしれないんだ。俺に…力を貸してくれないか。二人共」 「………」 故意の突然変異。 やはりそうだったのかと理解したアズサは、セキと目配せをする。セキは無言で頷き、彼女はワタルの方を向いた。 「あたし達で良ければ。ただし…」 「あんたに不穏な動きがなければ、だがな」 「はは、可愛いなりをして用心深いなあ少年少女…」 途端にワタルの首に何かがのし掛かり、ニューラの爪があてがわれた。 「………、…」 さながら忍者のようである。 一撃必殺。そんな四字熟語が頭に浮かび上がった。 「…えっと、ワタルさん。もしあなたに不穏な言動があればですね」 「…容赦はしない。」 「と、いうことです」 「じゃあこの状況って何!?今の全然不穏じゃなくない!!?」 「もう一度言う。容赦はしない。」 「ニュー…ッ」 「セキくんセキくん目がマジだよね!!それ本気で今から俺を血祭るつもりでいるよね!!!!」 アズサがこっそりと「女の子に間違われるせいで、可愛いとかいうのはNGワードなんです」と、恐怖で顔が引きつりまくったワタルに教える。詰まるところ「NGワード=不穏な言動」というところだ。ワタルが妙に深く合点したところを見ると、やはり彼もセキの事を男の娘だと思っていたのかもしれない。 気持ちは痛いほど分かるのだが、それと同時に段々セキが可哀想になってきたのであった。 「…ま、まあ、協力してくれるならありがたいよ」 「ルゥー」 「あたし達も発信源を潰さなきゃと思ってたので、丁度良かったです」 「一応感謝はする」 「そうか…なら話は早い、発信源は大体目星がついてるんだ。俺のカイリューに乗って行こう」 アズサとセキがちらりと赤ギャラドスを垣間見る。それに気付いたワタルが微笑し、彼女らに尋ねた。 「気になるかい?」 「あの後、ギャラドスはどうなるんでしょうか」 「…俺にも、分からないな。けど、あのまま色が戻らないのは確かだよ」 「………」 捕まえるのか、と訊いたが、彼女は首を振った。無暗に捕まえるのは好まないらしい。セキに訊くと、暫く考えた後にこう答えた。 「…、場合によるな」 「それは?」 「言葉通りだ」 ポケモンにも人と同じ心理がある。考えが“同じ”ならば、“異色”を称えるか、蔑むか。どちらかであろう。 「…色違いのポケモンの扱いは様々です。あたしは人より多くそれを見てきた。大体は皆が受け入れてくれて、幸せに暮らしているけど…そうじゃない事も、たまにあります。場合によっては───」 暗い顔をして俯くアズサ。その先彼女が何を言おうとしているのか、ワタルには良く分かった。 「……ま、様子を見てから決めようじゃないか。まずは根源を絶つ事に専念しよう」 沈んだ顔の二人の肩を優しく叩き、二人が返事をしてからカイリューの広い背中に乗り込む。ポケモン達は(スカイフォルムで飛行できるシェイミ以外)ボールに戻し、カイリューが翼を羽ばたかせ空に舞った。 「っていうか」 セキが再び浮かない顔で、眼下のギャラドスを見つめる。 「…ギャラドスは、なんでいきなりあんなに暴れて」 「さっき、怪電波が急に強まったんだよ。やはり奴等は、何かを企んでいるのかも………嫌な予感ばかりするな」 「つまり、あの赤いギャラドスを操ろうとしてた、って、ことですか」 「ただ周波を強めただけってのもあるかもだけど…彼の様子から、そうも考えれるかな」 「っ……」 アズサの顔が静かに怒気に満ちる。セキはそれに気付いたものの、シェイミと共に何も言わなかった。 「あ、行き先を君らに伝えてなかったね。今からいくのは──」 「土産物屋、じゃないのか?」 「!……そこまで突き止めてるとは…流石だなあ少年」 「見るからに怪しすぎんだろ。あれは」 笑うワタルに向かい飽きれたように言いながら、眼下の景色を眺める。…もうすぐ例の土産物屋に着く。 「つーかあんた、何もんだよ」 「はは、ただのしがない竜使いさ!」 「……派手な格好したロリコンの間違いだろ」 「セキったら、本人の前で本当のこと言っちゃだめだってこの前ミナキさんの時にも言ったじゃんか」 「徹底的に苛め抜くよねえ君達…お兄さん涙が止まらないや」 ロリコン疑惑の竜使い (悪い人では、なさそうだ) ────── ワタルさんはミナキさんと同じ部類、変態的な意味で。 ※侑はワタルさんもミナキさんも大好きです |