]X‐氷帝炎帝雷帝 「うっ…ううっ……ぐすっ」 端っこにいたマジシャンが着るような服を着た変な…じゃなくて彼は、啜り泣い…いや、むしろ咽び泣いていた。 「…………………、……」 顔を見上げると、セキの表情が固まっている。理由は、痛いほどあたしにもよく分かった。 「びすっ、うっ…ううっ」 わあ、もう、すごく泣いている。なんていうか、号泣してる。 「ひぐうっ…ぐすっおぇっ」 「………………………」 これは、その、セキと同じく絶句する事しか出来ないのだけれど、それでは話の展開が進まなくなる。滞る事になる。このサイトの更新みたいに。 そしてそれはずっとこの微妙な空気の中に居なくてはならない事を示唆するのでぶっちゃけかなり困る。 なので。 「………あ…の、お宅…誰ですか」 何を言うか色々と考えた挙句、取りあえず今一番この人に訊きたい事を思い切って質問してみた。 え、涙?はは、何を今更。 とうに引っ込みましたけど何か。 「うう…ぐすっ…す、すまない…、俺はこういうのに弱いんだっ…」 「……」 「………」 『……』 結論、として やっぱり見られてたなこの人に、一部始終。どうしようしにたい。 「セキ、今あたしこの人の頭を殴って記憶を消滅させたい衝動に駆られてるんだけど、もういいよね、衝動に体を任せちゃっても」 「アズサ、承諾したいのは山々だが…それは人としてちょっとアレだ」 「くっ…涙が止まらない…!」 「ああそうだな、いっその事その涙が涸れて何にも感涙しなくなるまで永遠にそこで泣いてろそしてあわよくば脱水症状引き起こしてしね」 セキは言葉通り無の表情でそう言った。 『取りあえずはっぱカッターしても良いでしゅかねこのKYに』 『シェイミKYなんて一体何処で覚えてきたんだ懐かしい』 「あああーっとそう、そうだ!えっと…そ、そう言えばさ!!」 耐え切れなくなり、急いで場の雰囲気を変えるアンドこの変人染みた人をきっぱりと無視する為に、あたしは早急に何がなんでも話題を切り替える事にした。 「…えーと…そう言えば、セキってなんでここにいるの?」 突然の話の切り替わりに激しく戸惑いつつも、彼はこの変人とは違い空気を読んで律儀に応えてくれた。 「え、と…あ、ああ。…あそこにいる三匹を、見に来た」 「?」 セキが指差す方向を見る。 「……、………………」 床に大きな穴が開いたところから見える、焼けた塔の地下…ここよりも薄暗いその場所の真ん中。 それを見た瞬間さっきまでの変人なんやかんやが、頭の中から一切排除された。 「…う、そ。あれ…!」 穴に駆け寄り覗き込む。 そこには、エンテイ ライコウ スイクン、という伝説のポケモン達が、神々しくその場に座り込んで居たのだった。 「……す、っごい、…こんなに近くで見たの初めて…」 「お前にもそう言うのってあるんだな」 「失礼なー…色んなとこ旅してると、ほら、毎日が初めての連続っていうの?そんな感じなんだから!」 「…結構格好ついたこと言ってんだから、言うなら、こう、もっとキメて言えよ…」 セキが呆れの溜め息を吐く隣で、神々しい三匹を見ながら感嘆の溜め息を吐く。やっぱりすごく、綺麗だ。 「ね、セキ。降りてみない?」 「は?」 あたしは言うや否や彼の手を引っ張って梯子の傍まで歩いていった。 そして降りた瞬間、そのことを若干後悔する事になった。 ……思ってたよりも、暗い。 可笑しいなー、ここって空筒抜けじゃなかったっけ?なんでこんなに暗いんだ… しかし目の前に伝説のポケモンが居るのでなんとかして平常心を保ちながら、三匹の前まで近付いていく。セキの手を持つ手に、知らず知らず力が入る。 「……アズサ、」 「大丈夫」 「あの…足震えて」 「震えてない」 彼は静かに息を吐いて、あたしの手を握り返した。 「…なあ、アズサ」 まだ彼に呼ばれ馴れていない為内心いろんな意味で動揺する。 「っと…何、?」 「お前は、伝説のポケモンを捕まえたいって思ってるのか?」 「………」 一瞬だけ、言葉に詰まる。 「……難しい質問だなー…」 あたしは立ち止まって、遠目に三匹を見ながら質問の答を導いた。 「まあ仮にもトレーナーだから、強いポケモンが欲しいと思うし、伝説のポケモンはすごく魅力的だけど…」 「…だけど、?」 「だけど……捕まえちゃったら、その伝説ポケモンの"役割"ってどうなってしまうんだろうって、思うんだよね…」 あたしの言葉にセキは首を傾げた。 「役割……?」 コクンと頷く。 「そ。例えば…あたしの故郷があるシンオウ地方、あそこにあるテンガン山って所のてっぺんには“破れた世界”への入口があったの」 破れた世界。現実世界と平行し、バランスを保たせてくれている大切な“知られざる場所”。 前はあった、だから今はないと思うってことね。と付け足してから、あたしは話を再開した。 「“破れた世界”にはギラティナっていうポケモンがいて、そのポケモンはそこの番人…番ポケモンみたいなものだった」 そして対峙して倒すか捕まえるかの選択をする事になった時にふと思った。 …彼を捕まえたら、“破れた世界の番人”という役割は、誰が務めるんだろう? 「結局あたしは捕まえなかったんだけどね。なんか変だよね、トレーナーの癖に、こんな考えさ」 セキはただ黙ったまま、真剣な目であたしを見詰めていた。 「───…!」 その時、場の空気が、りん、と静まり返った。 「、?」 ……な…に、? あたしとセキはそれに気付き、無意識にある方向を見やる。…そして心臓が飛び跳ねた。 「………」 「………」 スイクンが、こちらをじっと、ちゃんと意図のある目で見ていたのだ。 そして次の瞬間。 『……お前は…白波の巫女だな』 スイクンが、話だした。 「!……え、あ…」 …伝説のポケモンにまで知られてたんだ。あたしの名前って。 「おい、もしかしてこいつ…喋ってんのか?」 「!…セキ…分かるの?」 「いや……分からねえけど…何となく」 するとスイクンは、長いことセキをじっと見てから、また雄弁に口を開いた。 『緋の少年…お前が正しい答を導き出した時、我はまた、お前の元に現れよう』 「……!」 この声は聞こえたのかセキはハッと目を見開いた。スイクンの目はあたしに移され、すい、と細められる。 『白波の巫女…伝説の子よ、またいつか、何処かで遇おうぞ』 そう彼が言い終わった途端、後ろの二匹が、風を斬るような速さであたし達の傍を駆け抜けた。 「、っわ…!?」 「アズサ、!」 躰を引っ張られる。次の瞬間、チリ、という微かな音がして、ライコウの尻尾のようなものが服を掠めた。スイクンはいつの間にか、その場から消えていた。 「………危な、…かっ、た…?」 「ああ…」 二人してほっと溜め息を吐く。そして、自分が今、彼に抱き締められてる格好で居る事に気がついた…ついてしまった。 「……、…」 いや…、さっきのさっきまではずっとこんな状態だったけどさ…! だめだ、改めて意識すると、結構恥ずかしい。一気に顔に熱が集中する。うわあああなんでだ、熱い、熱いよ少し落ち着きなさいあたし。 「……………、セ、キ」 「え?」 どうやら彼は気がついていないらしく、あたしはがっちりとホールドされたまんまだ。…あ、セキって意外と睫毛長い女の子みた……いやいやだからそうじゃなくて。 「…、…」 「………?」 「…あ、の…えっと、できれば…う、腕、放して欲しいなあーなんて……」 ちょっと控え目に言ってみる。 「………………、あ」 見る見るうちに彼の頬が赤くなる。 最終的に。 「いッ嫌なら素直に嫌って言え!!!」 効果音がつく勢いで腕を放した。 「………」 しかし、あたしは再び後悔した。 …気のせいかな。ここ、さっきよりも暗くなってる気がするんだけど。 「……うん…ごめん、前言撤回。手だけでいいから手だけは放さないで下さい絶対に」 「………」 いや、だって、怖いから仕方ないじゃない…!と目で訴えると、セキは今日何度目かの溜め息を零した。 「生きる伝説にも、怖いもんはあるんだな」 「一体あたしをなんだと…」 緋と瑠璃の行方。 「…アズサ」 「?」 急に名を呼ばれる。 「…俺…あいつの言葉、最後のだけしか…はっきり聞こえなかったんだが」 俯きつつ、もごもごと喋る彼。 「うん」 「正しい答を…見つけれたら…俺は、強くなれるのか…?」 いきなり顔を上げて、そう言った彼の目は、以前のものとは異なるものだった。 やはり野心に満ちたあの目は、既にそこにはなく、ただ何かを深く思案しているような、それ。 (それでも彼は変わらず) (“強さ”を求めていた) (何故そんなにも強く求めるのか) (私はまだ、何も、知らなかった) ────── セキのスイクンフラグは誰得でもない俺得(…) 無視されたスイクンハンターは次にでしゃばってきっとまた無視されます。我が家ではイケイケなスイクンハンターは出てきませんご了承ください。 |