X‐キキョウの絶叫マシン


 ジムに到着してから、あたしはサンダースを外に出した。彼は体毛をぶるりと震わせ元気良く一声鳴いた。

「サンダースよろしく」
『おっけー!僕に任せろ!』

 サンダースはやる気満々な様子だ。既に体に電気を纏って、体毛が発光している。そんなサンダースを引き連れてジム内に入り、サングラスのおじさんに促されるままあたしは木の台のようなものに乗った。……そう、乗ってしまった。そして次の瞬間恐ろしい出来事が起こったのだ。

「!?、い…っ!い ゃ あ あぁおああ あぁあああーーーーーーーー!!!???!」

 まるで何かの絶叫マシンに乗ったような、体の芯から押しつけられる感覚。間抜けな悲鳴を上げて現状を把握しかねる。なにがおこっているのかわかりませんあたし。…何が起こったのかは全部が終わってから分かった。台が上に向かって急上昇したのだ。絶叫系が嫌いなあたしにはたまったもんじゃない。思わず腰が抜けてその場にへたりこんでしまった。サンダースとシェイミは白けた顔をしている、いやいやポケモンと人間の感覚を一緒にしないでほしいな?その目をやめてほしい。

『アズサ…こんぐらいで腰抜かさないでよ…』
「いや、さすがに、無理…は…?馬鹿なの…??いやもうむり、ほんとむり、こころおれました」
『アズサ!情けないでしゅね、しっかりするでしゅ!』

 シェイミは頭の上に乗って容赦なくぐいぐい髪の毛を引っ張ってくる。
 痛い痛いいたたたたたたた。
 お願いだからやめてシェイミ、あたしは髪の毛に困ってないから、毛根刺激しなくても髪の毛は十分生えてるから、というかそれ以上刺激したらハゲるってほんとに!

「ルカリオ!!あたしもう無理ー!!!むりむり立てない!やだ!おんぶしてジムリーダーの所まで!!それかここのジムリーダーさんがきてよーーー!!」
『お前に羞恥心はないのか』
「恥ずかしさとかマダツボミの塔に置いてきましたけどーーーー!」
『取りに行け!今すぐに!』

 結局、ルカリオはおぶってさえはしてくれなかったものの、足の支えにはなってくれた。自分が辛うじて絶叫が嫌いなだけの高所恐怖症でなかったのは不幸中の幸いというやつだろう。行く手にいた鳥使いの二人を苛立ちを乗せてサンダースのかみなりのキバで一発ダウンさせた後、ようやくジムリーダーのハヤトという人の元に辿り着いた。片目を隠した爽やか系イケメンだ。モテるんだろうなーとどうでもいいことを考える。

「あの…大丈夫?」

 ハヤトさんから聞いた第一声がそれだった。情けなくてごめんなさい。

「大丈夫ではないです。ほんときらいあのマシン。自力で立てるようにはなれましたけど」
「なんか色々叫んでたね、はずかしさがどうとか」
「!、……やだなあ、そりゃあんなマシンかまされちゃったら自暴自棄にもなりますよ!」

 おおっと。
 …まずい、やっぱり聞こえてたか。
 内心自分を叱咤する。危ない。人気が少ない所にずっと居たせいか、ポケモン達との会話が自重出来てない気がするなあ。取りあえず自重してあたし。いや今回はノーカンで良くないかな、あれはだめだって。相棒に助け求めて叫びたくもなるよまじで。

「まあ…自分で言うのもアレですけど、その、みっともない姿を見せてしまってすいません…白波の巫女とは名ばかりで実はこんなやつです…」
「はは、そういう人はよく居るんだ。だから気にしなくてもいいさ」

 羞恥一杯に顔を覆い隠すあたしゆそう言いながら爽やかに笑うハヤトさん。何かもう、爽やか過ぎて自分が馬鹿らしくさえなってきた。

「そう言う人がいるなら思い切って改築して下さいハヤトさん」

 そもそもこういうのはトウガンさんのジムだけで十分だよ。改造してくださいハヤトさん、デンジみたいに。いやだからといってし過ぎはいけないと思うけどね、特にデンジは。ハヤトさんはくすりと笑ってボールを構えた。やる気だ。眼がキラキラしている。バトルを楽しむ眼だ。

「考えてみる、それじゃあそろそろバトル…出来るかい?」
「もちろん。サンダースいくよ」
『りょーかい!!』

 ハヤトさんが繰り出してきたのはポッポとピジョン。少々素早さに手こずったものの、2体ともサンダースの今のところ百発百中なかみなりで戦闘不能にした。ハヤトさんはうん、と頷き噛み締めるように相棒を戻したボールを握りしめた。

「…やっぱり、白波の巫女…アズサだけあるな。とても強い、全く歯が立たなかった」
「そんなことは」
「足はもう平気かい?」
「噂と違ってダサくてすいません……」

 顔を覆って謝るとハヤトさんはからからと笑い飛ばして「思ってたより厳格でなかったし、かわいらしくてびっくりはしたよ」と言ってくれた。お世辞でもそう言ってくれるとうれしいものだ。…やっぱり『巫女』の名前はごつすぎるんじゃないかな。彼は徐にあたしの手を持って、手の平にバッジとわざマシンを置いた。おっとイケメンはやることが違うわね、とグレイシアが興味津々に囁く。彼の顔を見るとそりゃもう嬉しそうだった、にっこにこの笑顔だった。なんだろう、なにかしたかなあ…あたし。しかしそれを聞くまでもなくジムリーダーたる彼は大興奮でルックスにはおよそ合わないマシンガントークを始めた。

「はい!ウイングバッジとわざマシン51のはねやすめだ。君の噂は聞いてたよ、白波の巫女はすごいんだなと今日実感した…あのね…感動なんてものじゃないくらいすごかった!サンダースの毛並みも綺麗で抜け目のない仕草だし、ねえ頼みがあるんだけれど今度来てくれた時はあなたのひこうポケモンも見たいなあ…!きっと羽毛とか、すごく、ほんとにいい触り心地なんだろうな…っ あとすました態度をしておいて恥ずかしながら、実はあなたのファンだったんだ僕、すごい嬉しいのを隠すの必死だったんだ、ははは!あっ噂にしか聞いてない話なんだけど海を割ったって本当かな?!」
「まってまってなにがねじ曲がってそうなってるんですか!?」

 モーセと間違えてませんか。うわさこわい。ああ…見た目に騙されるなとはじめの旅から嫌ってくらいわかってたじゃないか。この人ジムリーダーなんだった。忘れてたよ、ジムリーダー四天王ジンクス「彼らは大体オタクを拗らせている」。格闘オタクに石オタク、電気改造オタク、オシャレオタク、植物オタクに水泳オタクあとなんだっけ…とりあえずこのイケメンさんもジンクスにしっかりと寄り添う精神を持った人だった。このまま熱暴走させるわけにも(彼の名誉のためにも)いかないのでとりあえずポケギアの番号を交換しましょう、とメモを渡すと、そのメモをじっと凝視してキラキラとしたエフェクトが見える嬉しそうなオーラを振りまいていた。喜んでくれているならよかった。なんだかおかしくなって吹き出すと、彼は慌てて帰路を一緒に歩いてくれた。

「あの、ひこうポケモンって何をもってるんだい」
「純粋なひこう持ってないんですよね…じつは」

 ハヤトさんには預けたり譲ったりしてしまってと言ってはいるが、本当は飛行系の軽い移動手段は野生でも仲良くなって乗せてくれるからで、タイプ的には間に合ってるからだった。ジムリーダーは好きな部類の人たちが多い、彼のように真っ直ぐ趣味に突っ走るアツい人は好きだ。けどいうわけにはいかない。噂なら噂で留めておくべきなのだ。

「えっ、この子がひこうタイプ!?」
「ミィ!」
「びっくりでしょう、いろいろ条件はあるんですけどね」
「いいなあ、そんなポケモンもいるなんて…いいなあ、すごいなあ」

 この人にならいいかな、と思いシェイミを紹介する。彼女の特性を聞くなり驚いては目を輝かせうっとりと空を見上げる。この人は空に帰するポケモン達がどこまでも好きらしい。でなければジムリーダーにはなってないか。


「じゃあ、また」
「次はシェイミを使ってバトルしましょうね」

 ハヤトさんが高速で頷く。それを見て笑いながら後味良くステップを踏む。忘れていた。ここのステップ超高速で上がるなら超高速で下がるじゃん。気づいたものの時遅く…視界が急降下し、その場にまた悲鳴が轟いた。もちろんあたしのだ。ハヤトさんと次バトルするときは本気出そう。
 このマシンに設定した罪だけは許さないぞと心に決めた。



テンション急上昇、君は急降下





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爽やか三組〜と思うじゃん、正統派イケメンを出すわけない




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