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「ナマエさん、暑いよ」

仰向けに寝転がる尾田の上に、腕と脚を放り投げてすぐに言われた。明らかに彼の方が体温が高いのだから、私が暑くなるという警告なのか、それともじっとりとした汗が不愉快でそう言ったのか。心も体も寒いと言ってこの家に転がり込んだのは、気付けば半年以上も昔のことだった。

「エアコンつけますか」
「いや、いいよ」

少しあってから九十度こちらに向き直った尾田は、左腕を丁度くびれの上に乗せてきた。なるほどたしかに。密着した部分から汗をかいて、ジワジワと暑くなりそうだ。自分の意思ではないのだから、尚更。それからご丁寧に肘をついて頭を擡げたので、なるべく視界に入らないようにと傍に寄った。
次第に前面と背面で空気が変わっていった。互いに熱を発しているせいだろう。薄っすらと尾田の顔を仰ぎ、目線の向こう、頭蓋の反対側のことを考えた。

「尾田さんは、どうしてピアス開けたの?」
「……どうしてって言われてもねえ」

うーん、と何を悩んでいるのだろうか。いきがっただけで、理由がなかった?それとも昔、社長に開けてもらった?いや、開け“させた”のだろうか。病的なほどの執着が、容易に想像力を掻き立てる。本当はたまに怖い。瞼を閉じると思い浮かんだその顔は、ゆっくりと口元を動かしている。今に始まったことじゃありませんよ。一年前に見た光景。
磨り硝子から差し込む光は緩やかに橙色に変わっていった。

「痛いのが好きだから、じゃないかな」
「えぇ、嘘だ」
「本当だって」
「いたぶる方が好きだと思ってました」
「はは、人聞きが悪い」

言い方は確かに悪かったかもしれない。が、負けん気とかプライドとか、妙に高いのは知っている。体に乗っていた腕が退けられて、耳に触れた。彼のではない私の。ぐにぐにと耳朶をいじり、ゆっくりと縁に沿って這い上がる。塞がった痼りを見つけるたび、引っ掻くように指先が擦れた。性的な素養を一切含まないせいで、妙な心地がする。

「ナマエさんのは、オシャレのため?」
「ううん。ただの自傷行為」
「意趣返しのつもりかな」
「ちがいますぅ、本当ですぅ」
「わかった分かった
 でも軟骨も開けるなんて、相当だと思うけど」
「もうしません」
「どうして? 痛かった?」
「痛いって、いうか。感触がね」

骨を貫くあの実感を忘れられるはずもなかった。グリグリと針が食い込んで、裂けようもない平面を割り開いて進んだこと。刺す側の心境は勿論の事、冷やして神経が殺されていたにしても、刺される側の感覚だって鮮明だった。二度目を繰り返すにはマッドになる必要があって、そのためには余程の出来事が必要なように思う。たとえば、いや、よそう。
上体をゆっくりと起こすと、自然と尾田の手が離れていった。乱雑に散らばった髪の毛を手櫛で梳いて、時計を見る。早すぎるわけでもなく、余裕ぶっていると遅れてしまうくらいの時間だ。マットレスに突き立てた腕の、肘のあたりが掴まれた。振り返る。ぐるりと一周まわった掌は、何を伝えたいのか。

「酷い話ですよ。どっちもドMなんて」
「最悪だねぇ、相性」

不意に、パラパラとガラス戸を叩く音が始まった。夕立の気配。
これから始まる夜が、私たちの朝になる。




尊い孔 160829