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今、私には三つの選択肢が用意されている。
いや、用意されているというか、ない頭を使って必死に絞り出したのだ。聞いてほしい。

1.睨む
2.叫ぶ
3.頭突きをかまして逃げる

ダメだ。全部ダメだ。何がかは分からないけど多分駄目だ!
ひとまず説明するとこうだ。

いつ、夕方。
どこで、近江連合本部の離れ屋敷で。
誰が、身長190センチほどの声変わりを済ませた小学生が。

私を口説いている……の、か?

いやいやいやいや!
色々と意味が分からない。時代とともに子供の発育が良くなっているという話はいくらでも聞くが、郷田家の御曹司はそんな生易しい言葉でおさまりなんかしない。ランドセルよりも金属バットの方が似合うに決まっている。算数ドリルなんかよりも日本刀が似合うに決まっている。だって今迫力とかめっちゃ凄い。

「なんか言うてくれませんか」
「よく聞き取れなかったの」
「ワシに女のことも教えてくれんか言うたんや、先生」

ですよねー。聞き間違いなんかじゃないですよねー。お姉さん困っちゃったなー。そもそも一ヶ月前、勉強を見てやってほしいとかそんなことお願いされた時点でコマッチャッテタンダケドナー。アー。
一つ引けば一つ歩み寄られるせいで、壁の際まで追い詰められてしまった。お姉さんなりのプライドだってあるからこんなことお首も出したくないんだけど。本気で努めなければポロっと戸惑ってしまいそう。

「そんなの、いくらでも親切なお兄様方がいると思うけど」
「自分を安う売るような女連れてこられても、そういうんとちゃうんです」

実行済みか。しかも一足飛びか。
うーん……頭が痛い。

他の近江の方々、そう、例えばあの胸糞悪い佐川とかだったら冷たくあしらってもいい。叫んだり殴ったりしてもいい。しかしいくら図体がデカいと言っても、龍司は子供だ。たったの12才だ。子供の時の傷は大人になってからよりずっと大きい、と、思う。傷つけてどうなるかが分からないから怖い。どうすれば傷つけずに済むかが分からないから困る。その時分の私は友達と仲直りをする方法に悩んだり、昨日見たテレビ番組のことではしゃいでいた。恋をしても男女というものについて考えたことはなかった。

「聞くけど、龍司くんは好きな子とかいないの」
「先生のことはええ女や思いますけど」
「うん、そういうことじゃなくて」
「ワシのこと男として見れんっちゅうことですか」

うん、そういうことなんだけど。言わないけど。
小学生をそういう目で見れる方が驚きである。パッと見た感じでは、たしかに良い体つきで顔立ちも整っている。龍司の言うような安い女、それが初対面であったとすれば確かにころっと転がってしまうのは話がわかる。分かるがしかしだ、私はさっきまであんたに文字式を教えていた。ため息が出た。我ながら演技くさいと思う。

「義務教育が終わったら考えてあげる」
「なんや、先生も子供扱いですか」
「子供がなに言ってるの」

逸らした目線の奥底とは。簡単だ。きっと背伸びがしたいのだろう。早く大人になりたいのだろう。なんてったって郷田家の御曹司だ。だったら尚更、人生をすっ飛ばして良いはずがないのに。多分どう言っても伝わらない。ばつが悪そうに引いた龍司は少し寂しそうだった。

「まあ、今日のところはいいです
 暫くお世話になりますさかい」
「次また同じことしたらお父様に報告しますからね」
「親父に言うたところで、先生が笑われますよ
 ほな、気ぃ付けて帰ってください」

そう言って龍司は踵を返した。横目で追ってから確認した腕時計は、予定より10分回っている。送りの車を待たせてしまってるに違いない。足早に玄関を目指した。何か言われたら、龍司が勉強にご執心だったことにしよう。
そう考えて角を曲がると、先ごろ思い浮かべた下衆な男がいた。よりにもよって、最悪だ。唐突すぎて肩がビクついたのを見られたことも含めて。そのニヤニヤした下卑た表情は、今この瞬間に鉢合わせたわけじゃないとはっきり言っている。いいツテでもなければ、こんな奴。

「やっぱ若様は面白えな。ナマエちゃんに頼んで良かったよ」
「……いつから聞いてたんですか」
「いやあ?ついさっきだけどな
 今日はえらく時間かかってると思ってよ、迎えにきてやったの」

佐川は無遠慮に肩を抱いて歩きだした。ああ、殴って逃げたい。
頼むから龍司はこっちの方向には流れないでほしいと切に願った。




Juvenile 160627