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※アブノーマルな要素があります。ご注意ください。






喉奥から出る吐息を自覚できないほど、既にナマエの意識は散漫としていた。
背後から肉を突き立てられて、ただそれだけでも意識が炸裂しそうになるというのに。ナマエは後手に縛られて身動きも取れず、両膝に加え頭蓋と右肩とだけで体重を支えねばならなかった。胸や腕を抱きとめるように絡んだ縄は存外に心地よく、時折、背中に渡る縄の一束を引かれれば、渋澤の腕に甘く抱かれているかのように錯覚した。最早目が開いているのかすらも分からない。あらゆる感覚が、ナマエの意識を溶かしていた。

「っ……! ん……っ ぅ」
「声、我慢するんじゃねえ」

渋澤はたまに、こうして縄を使った。それ以外、例えば目隠しをされたりとか、鞭で叩かれたりとか、そういう嗜虐被虐の類は一切なかった。ただ一度、口枷が与えられたことはあったが、野放図に垂れる涎が気に入らなかったようでそれっきりになった。渋澤にとっては単に視覚的な欲求を満たす装飾なのだと気付いてからは怯えることも忘れ、次第に順応していった。

繋がりが抜かれると切れ切れに息が漏れた。視線の端で渋澤を追っていることに気づいて、ようやく自分が目を開けていると自覚した。ナマエは体を捻り、仰向けになろうとしたが、不自由な体では横倒れになるまでが限界だった。ベッドとの間で引き攣れた縄が擦れる。汗で張り付いた髪の毛を払う渋澤の手と、先ほどとは比べものにならない近さでかち合った目線がナマエの血を昂ぶらせた。

「啓、司さん……」

渋澤は何の返事もしなかった。冷たい瞳の奥底で揺らぐ気配はナマエの妄想なのかもしれない。腕に抱かれ、今度こそ仰向けに整えられた時、どんな抵抗も思いつかなくなっていた。きつく固められた上半身とは裏腹に、平気で膝を割った自分が滑稽に見えた。
恥丘を二度三度擦りながら、渋澤はナマエの期待を煽った。強調された片方の乳房を揉まれ、腰が揺れる。渋澤に触れたいと思ったとしても、その行為は許されていなかった。

「昔と比べて、物欲しそうな顔するようになったな」
「そ、んなこと ない、です……」
「舌出してみろ」
「ん、……ぁ」
「それじゃ口開けただけだ。しっかり出せ」

滅多に見ない悪童のような顔をして、親指を口腔の中へと押し込まれた。そのまま舌を削ぐように引かれて呼吸が苦しくなる。痛みや苦しみと呼ぶよりは、異物に対しての拒絶があった。ナマエは無意識に体を引こうとしたが、それも渋澤の手で制された。逆に緩慢に挿入されたことで、尚一層ナマエは混乱した。自分の体が何に反応しているのかもわからず、ただ目に涙を滲ませるしかなかった。

「ぅ、ぇ……っ ぁ う」

喉奥がぐっとこらえるような息をしたところで解放された。甲高い呼気音。胸を上下させながら吐く大仰な息は、渋澤のせいなのか、自分がただ渋澤に何か伝えたいのか。境目を見つける間もなく、渋澤が動き始めた。何もかも諦めざるを得なくなった。次第に感覚が混ざり、また目が見えなくなった。







「痛くないか」
「大丈夫です」

それより、と続けるか迷ってナマエは口を噤んだ。朦朧とした意識で、適切に言葉を形取れる気がしなかったからだ。散った意識を回収もせず、ただ渋澤に解放されることだけを待った。擦れる音。主人を失って床に落ちる音。首と肩の継ぎ目を食まれたので、痕跡があるのだろうと思った。

全てが自由になったところで、すぐに元の通りとはならなかった。あれだけ触れたいと願った手に自信がない。知ってか知らずか、渋澤は腕に残る赤い筋に触れると体を抱き寄せた。鍛えられた肉体に落ちながら、ナマエは目を瞑り振り返る。
気付いていた。単に儀礼的な成り行きであることに。
口付けを受けながら、これだって、今日一度きりなのだと知っていた。




陶 160626