×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



いつの間にか眠っていた。
ベッドに移動したことは覚えている。一度まどろみかけてハッと起きた時は、確か五分も経ってなかった。それからどれくらい時間が経った? いや、そもそも以前に確認した時計の時間を覚えていない。

「また薬飲んでたのか」

佐川の声。ぐぅっと引かれるように瞼が持ち上がらず、独特の心地よさがあった。邪魔をしないでほしかったと思う。手首や腕や二の腕を、ただ質感を弄ぶためだけに握られるのがわかる。薄く開けて、閉じてを繰り返してもう一度目を瞑った。覆い被さるその姿が、ワイシャツだということくらいしか分からなかった。

「別にいいじゃない」

合法的な手段で手に入れた、至ってまともな医薬品だ。文句を受ける筋合いはない。前の男は、それが精神科というだけで激怒した。そうまでする仕事なら辞めろと言った。結局、彼に飼われるのが嫌で別れた。今となってはもうどうでもいい。
呆然とした意識にあって、肉を揉み、骨を辿る佐川の手は、どういうわけか心地がよかった。厭らしさのかけらもなく、ただ私という物体を楽しんでいる。それよりも、まだ効き目があるうちにもう少し寝たい。もう少し。

「ナマエ」
「んん」
「別に眠い薬じゃねえんだろ」
「でも気持ちいいんだもの」

折角なのに、勿体ない。共有できれば分かってもらえるだろうか。両腕で首に縋って、静かに呼吸をする。浮いた上半身の隙間に、佐川の腕がまわりこんだ。パーカーのフードだけが重力に従う。酒の匂いがしたので時間を聞けば、まだ17時半だといった。

「もっと効く薬でも、持ってきてやろうか?」
「いらない」
「血に流すのと鼻から吸うの、どっちがいい」
「いらない ってば」

必要といえば本当に持ってきかねない。耳と耳の軟骨を重ねながら妄想の絵図を描く。可哀想だなあと本気で言いながら劇薬を与えられる未来。犬のように泣いてすがる、私。惨め。
今度は骨にご執心らしいその手は、肩甲骨を掴み、指を食い込ませた。あと少しずれていれば、肩こりにでも効きそうなものだけど。甘んじて受け、ぼんやりと天井を見上げていれば、いつの間にか目を開くのが苦痛ではなくなっていた。それさえ自覚すれば瞼にとどまっていた睡魔が、眼球からすーっと脳髄に抜けるように。次第に意識が鮮明になる。

「なんか、急に目が醒めてきたわ」
「そりゃ良かった」

興味なさそうな口ぶりとは裏腹に、滑り込んだ手が背骨を上へと辿った。増えた体積のせいで服が首を圧迫しそうになり、慌てて遮る。自分から前のジッパーを開けると、佐川の手が胸骨、鎖骨、上腕骨の繋ぎ目までを動いて、勿体ぶるように服をはだけさせた。これまでひたすら戯れていた掌が、急に熱を持った気がして動揺した。軽く息を吸うと佐川が首を傾げた。

「なんだ、泣いてたのか」
「え?」
「ま、いいや」

自分でも泣いていたかは覚えがない。そう見えただけかも。ひょっとすると、微睡みの中で脳髄が溶けたのを錯覚したのかもしれない。今度こそ本当に興味を無くした佐川は、私を起こして胡座の中へと座らせると、内に着たタンクトップもたくし上げるよう要求した。

これから佐川とは、多分それなりにセックスをする。
先ほどは全てを忘れて眠ったのだから、
最後に肉でも食べれば、
また、日常に帰っていける筈。




Reset 160614