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まだ、早朝だろうか。
遮光カーテンの下から伸びる光は明るいとは形容しがたいほど微細で、目を覚ますにはきっと幾分か早い。

ぼんやりとした視線を移すと、背を向けて座る彼の姿が目に入る。恐らくベッドが軋んだかなにかで目が覚めたのだろうと思った。
その背中で笑う顔の、鼻筋から眉間にかけてを指で辿ると、思いの外過敏な反応をした。

「なんや、……びっくりするやろ」

僅かに振り向いたその口元には、火のついていないタバコ。考え事でもしていたのだろう。
茶化す気にもなれず、曖昧に笑うような表情を作って返す。
それで、思い出したように火が灯された。
息が吐き出されると、あたりに馴染みの香りが広がった。

起きてなんとなく、背中の顔に触れる。ほほ骨の流れを、顎や唇のフチを、眼窩の周りを、中心から外に向かって、私がいつも自分の顔にするようになぞる。
彫師は何を思って彼女にこの表情を与えたのだろうか。

「何しとるんや」
「お顔、マッサージです」
「そないなこと、バチ当たっても知らんで」
「大丈夫ですよ、きっと、女性だから」

腰に手を回して体を触れ合わせる。
つと鼻の先で肩口の椿に触れて、唇で触れて。
全て、すべて食べてしまいたいのだと、欲求。
あなたのどんな持ち物でも、分け与えて欲しいのだと。
本当に、どんなものでもいいから。
すうと一つ息を吸ってから、肩に額を押し付けた。

「ね、まだ、起きないんですか?」
「まだ早すぎるからなあ」
「そうですね」
「……もうちょっと、そうしといてくれや」

だって、そう、私には
その背中の御息所が泣いているようにしか見えないから。




白の海はそう広くもない 160316