×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



「今日はどうでしたか」
「疲れました」
「疲れました」
「それはご苦労様です」

二人は完全に疲労困憊で、ナマエは完全に机に突っ伏しているし、尾田は頬杖でギリギリ踏みとどまっていた。
両者とも脚の投げだし方がいつもよりも派手だ。
恐らくはこれから豪勢な料理が出てくるであろう円卓を囲みながら、立華だけがにこやかな顔をしている。

普段は足で稼ぐのが尾田で、手で稼ぐのがナマエだった。
尾田は金を持って出て行ったと思ったら、その倍もする契約書をフラッと持って帰ってくるのが常だったし、ナマエはナマエで一日中ワープロと睨み合いをしながらいつの間にやら約款だか規約書だかを傍らに積み上げているのが常だった。

それをたまには入れ替えてみましょうか、と社長の気まぐれが行われたのが今日の丸一日。
そしてこの結果だ。

「社長、あのですねぇ……」
「はい何でしょう」
「向いてないことはやらせちゃダメ」
「でもやってみないと分からなかったでしょう」

二人はそこで押し止まった。
確かに認識と理解との差は確実に埋まったが、でも多少は分かってたんじゃないかなあと脳内で駄々をこねた。
営業ができないから事務をやってるし、事務ができないから営業をやってるのに。
そこで丁度料理がいくつか運ばれてきたので二人とも姿勢をできる範囲で正した。立華は少し満足気だ。

「まあ、今日はいっぱい食べましょう」
「いただきます社長」
「ご馳走になります社長」

小皿に取り移すとき、ナマエは姿勢を変えるのを避けているのかぎこちなかった。
尾田はどうやら箸を持ちづらそうにしている。
互いにこんなにも酷使する場所が違うのか。
そして立華も相変わらず片手が不自由だったが、それに関してあれこれ面倒をみられるのを煩うきらいがあるので誰も何も触れなかった。
ただ、回転盆がそれとなく優先的に回されるくらいで。

「それから、ねえ、察しの良いお二人ですから
私が何を言いたいかくらいはわかるでしょう」

それぞれ全く別のものを口に含みながら、尾田とナマエは目を見合わせた。
怒ってる?いや、そうは思えない。
でもわざわざ仕事を入れ替えたり、こうして食事の席を設けた理由は明らかで。
先に口を開いたのは尾田の方だった。

「社長、別に俺たち仲が悪いわけじゃないですよ」
「そうですよ、いけ好かないだけです」
「おい、はっきり言うな」
「大丈夫です、それは分かってますから」

でも少しくらいは思いやりがあってもいいのではないか、というのが立華の言い分だった。

「理解……は、してますよ?」
「むしろしているから腹立たしいというか」
「そう。あ、あといっつも尾田さんばっかりズルいです」
「はあ?お前何言ってんだ」

でもだってこの阿呆と戯れのように罵りあうのが、まさかこんないい年をした大人で良いというのか。
立華は溜息と呟きを一つ。

「お二人は僕のことが好きすぎなんですよねえ……」

眉間に皺を寄せながらフカヒレのスープを食べた立華に、呟きを聞き逃さなかった二人はぐうの音も出ないというように見惚れてしまった。
腕っ節が強いとか、頭が切れるとか、そういう分かりやすい話じゃなくて、時折見せる馬鹿みたいな前向きさが何よりも立華鉄という男に惹かれる理由だった。

その点だけは、他の誰にも伝わらない二人だけの共通事項だ。

「……そういうの狡いよなぁ」
「いや、本当に」
「おや、仲直りですか?」
「「違います」」

まあ、言うなれば、
親を取り合う双子のようなものなのだ。




sister 160502