※ヤンデレ臨也は殺意もご託も3割増


「人間は愛がなくては生きていけない。何かを愛さなくては生きていけないし、何かから愛されなくては生きていく事が出来ない。他者と自己の間に繋がりを持つ事が出来なければ、アイデンティティが崩壊して絶望して死を選んでしまう。気の毒な事にね。差し詰め、かのキルケゴールが言う所の『死に至る病』って奴だ。まぁ俺は彼と違って神なんか信じていないけど。無神論者だし、そもそも実存主義者でもない。……話が逸れたけど、詰まる所、自分以外の他者の存在を欲するという行為の根底に在るのは、種の生存本能でも繁栄願望でも無く、自分をこの世界に確固たるものとして存在させるという利己主義に他ならないんじゃないかと思うんだよね。自分を死なせたくないから人を愛するなんて、全く強迫観念も良い所だ。ああ可哀想に。憐れだねぇ人間は。しかしまぁこんな事を言う以上は、俺の掲げるヒューマニズムだって俺の存在を確かなものにする為のものに他ならないんだろうけどね。そう、俺も可哀想で憐れな人間の一人に過ぎない。でも当然だろう?だって俺という主体無しにこの世界を社会を人類を人間を愛する事なんて出来ないからね。……ハハ、矛盾だと責めたいなら好きにしたら良いよ。けれど、愛と実存の関係は果てしなく強固で深層だ。それは真理、そうだろう?じゃあ、少し観点を変えてみよう。愛とは何だ。愛とは、自分の実存を保証する為の行為や観念でしかないとするならば、それは依存と変わりないんじゃないかな。自己を形成し存在させる為に必要な『繋がり』が薄れて消えてしまわないように、相手を必死に掴んで繋ぎ留めて縛り付けておく。更に言うなら、相手の存在に自分の存在を懸けてしまう。これを依存と呼ばずに他に何と呼べるだろう。『依存』って辞書で調べてみなよ。『他のものに頼って存在していること』って出てくるだろう。そう、つまりはそういう事なんだ。愛とは、他者に頼って自分を存在させる事で、つまり、依存だ。それが理解出来るとさぁ、『純愛』という言葉が如何に陳腐な単語かが浮彫りになるよねぇ。真っ白で純粋な愛なんて無い。真っ黒で汚くてドロドロした依存しか無いんだよ、この世界にはね。依存と愛は等号で結ばれ、自己実存の契機となる。俺の意見はとんだ詭弁だと思うだろう。けれど、これで良いんだ。だって今俺が話した事は俺の理念理想妄想の塊、ただの思考の経路であって、理路整然とした論文ではないからね。それにほら、矛盾があった方が人間らしいだろう――なんて、ヒューマニスト折原臨也は思う訳さ。
しかしながらここで一つ問題が発生する。それは、俺の、シズちゃんへのこの感情をどう分類するかという事だ。嫌悪?まぁ正解だ。俺はシズちゃんが嫌いで大嫌いで、憎くて憎くて憎くて堪らないからさぁ。シズちゃんにしたって俺の事が憎いんだから、お互い様って奴だ。そしてシズちゃんが大嫌いな俺は、シズちゃんが傷付き苦しむ為なら、何の苦労も厭わずその選択を実行してみせよう。そうさ、だから俺はシズちゃんの事を掴んで繋ぎ留めて縛り付けておく必要があるんだ。何故なら俺に対する憎悪で一杯になってほしいから。身体中に転移していく憎悪に潰されて消えてしまえば良いんだ。だから、シズちゃんが俺だけを見て憎悪を募らせるようにする必要がある。それなら、ずっと俺の元に居るように、何処へも行かないようにしないといけないって事になる。そうだな、足枷や手錠とか使えばいいのかなぁ。ああそれと、シズちゃんが俺以外の他のものに興味を向けないようにする事も必要だ。シズちゃんが触れた人話した人見た人、全て遠ざけて削除しないといけないねぇ。それから、それから、……ああ何だか凄く気持ちが高ぶってきた!胸が一杯になりそうだ!困ったな、まだ早いよ。シズちゃんにまだまだ何もしていないのに。でもここだけの話、この高揚感を味わう為に俺は生きているんじゃないかって思う時があるんだよね。あぁ、うん、自分でも陳腐だとは思っているんだけどさ。でも、この感情はまるで麻薬だ。一度味わったらもう手放せない。俺という現実存在の細胞や神経一つ一つがザワザワと騒ぎだして、俺を興奮へと責め立てる。その時の高揚といったら、ああ無いね!『俺は今生きている!』って所構わず叫び出したくなる程なんだよ。だからさぁ、吐き気がする程皮肉な事に、シズちゃんという存在は俺の存在がこの世界に確固たるものとして根付く為に必要不可欠なのかもしれないんだよ。俺の存在はシズちゃんの存在に懸かってるのさ。

――あれ、こんな感情を何て呼ぶんだったかな。ちょっと前まで考えていたのに思い出せないや。

まぁ詰まる所、シズちゃんが結果そうして俺に対する憎悪を募らせて潰されて死んで消えてしまえば良いって事なんだけどね。……なら、シズちゃんに対する感情はやっぱり憎悪なのか。そうかそうか。憎悪。愛とは真逆の響きだ。ハハハ笑える。笑えるよ、ねぇシズちゃんも笑えるだろ?」
「手前の気持ち悪い気狂いに誰が笑えるか。ていうよりな、手前に対する憎悪ならもう溢れんばかりなんだよ。だからとりあえず殺す。」

ギラギラと獣の様に獰猛な金色の瞳が俺を捉えている。其処に宿るのは紛れもない嫌悪と憎悪の黒い影と俺の黒い姿だけ。そう、それが俺が求めるものだ。ああ、何て凄まじい高揚感!
殴られたら切り刻んで、蹴られたら刺し貫いてやろう。さて、じゃあ。俺の存在をこの世界に刻み付ける為に、今からシズちゃんに俺という嫌悪の種を植え付けて殺すよ。ハハ、天も照覧あれってね!

「ああ憎くて憎くて堪らないシズちゃん!俺の為に死んで!」



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