「光が僕を愛するのは何故?」

ぽつりと落ちた呟きは、確かな冷たさを持って空間に広がって行った。また始まったか。僕はゆっくりと馨に向かう。指を絡め、視線を絡める。それでも交わらない思考。錯綜する。

「光は僕の何処が好きなの?」
「僕は馨の総てが好きだよ。」
「すべて?」
「そう、すべて。」

呆けたような呈で、馨の唇が再び動き出す。まるで呪いの呪文だ。僕は耳を塞ぎたくなる衝動に駆られた。


すべてというのは一体どういうことなの。僕の外面も内面も全体も一部も髪の毛も爪先も愛しているということなのかな。それはつまり僕の何かが少しでも変わってしまったら光は僕を嫌いになるということになるよね。「すべて」を持つ僕ではなくなってしまうから。じゃあ何があれば僕なんだろう。光が愛してくれる僕って誰なんだろうね。


僕って誰なんだろう。浮遊する呟き。馨は僕の瞳に映る自分を見ていた。自己完結の世界に侵入は許されない。

「光、僕は光と同じ顔をしているよ。身長も体重も。太さ細さ、大きさ小ささ。全て同じ。性格は違うけれど、目に映る限りでは僕らは同じ存在だ。そうするとね、僕と光の境界線が曖昧になってくるんだ。」
「そういうものかな。」
「そういうものだよ。なのに僕は光じゃなく、光は僕じゃない。これは事実。」
「そうだね。」
「ねえ光、僕をどうして愛するの?」

馨は意味を求めたがった。馨が欲しがるなら僕は何だって与えたい。けれどもそれは僕には見付けられない。不可能だ。何故なら、生まれて育ち馨がそこに居たから僕は必然に愛した、ただそれだけだったから。事実に後付けする理由などに、意味は無いと理解している。

「僕が馨を想っている、それだけで事実は十分なんだよ。」
「……本当にそういうものなのかな。」
「そうだよ、きっとね。」

ぼんやりと虚空を漂う馨の思考は僕に接触を許さない。ああ僕には分からない。どうしてそんなに意味を求めるの。馨の考えている事が分からない。罪悪。支配されながらもその指先を離さないのは、意地と言うには固すぎる僕の意思。

「僕は馨が好きだよ。」
「……僕も光が好きだと思うよ。」


分からないならせめて分かった気に位はなりたい、と願うのは傲慢だろうか。



さて君の海は思ったより深い


title by joy
image song:ソクラティックラブ(RADWIMPS)

(前サイトより)


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