※中等部時代(9巻ネタ)


「あなたがすきです。」

桃色の封筒が憎い。白い便箋が憎い。丸みのある文字が憎い。憎い。けれど何より憎いのは、この封筒を馨の机に忍ばせた奴。一体どんな様子でこんな事をしたのだろう?赤い頬に軽く噛んだ下唇、おまけに震える指先といったところか。正にステレオタイプ、正統派の恋する乙女。簡単に想像がつくそれに軋む憎悪。吐き気がした。


「あ…。か、馨…君?」

放課後の学院の片隅。物陰から馨とオンナノコを見つめる。甘ったるく揺れる瞳で馨を見つめる彼女。ああもうそんな目で僕の馨を見るの止めてよ気持ち悪い。
吐き気を抑えて様子を伺う。馨がいつもの台詞をいつものように優しく囁いているのが見える。夢見心地の彼女を嘲笑った。
馬鹿だ。陳腐だ。滑稽だ。
最高に薄情な愉悦が頂点に高まった所で種明かし。いつものように突き落としてさよならだ。見る間に彼女の揺れる瞳は先程までと違う色を纏う。それは悲哀か絶望か――なんて、下らない。どうあっても構いやしない。

「そんな、ひどい…っ!」

酷い。ああそれって君の顔の事か。涙で確かに酷い事になってるよ、ご愁傷様。
ぱたぱたと走って行く彼女の後ろ姿。散らばる絶望の欠片に倒錯した悦び。いい気味だ。僕の馨に汚らわしい目を向けた罰だよ。

「光?何にやにやしてんの。」
「ん?別に何でもないよ!」

不愉快な足音も消えた後、僕は馨に寄り添い嘯く。暮れなずむ思考の向こうでカラスが鳴いた。赤い空間に黒い影。茜の降る空が僕等を包む。

「馨、今日の子さ、凄く可笑しかったよね。」
「え?」
「ほら、『馨君さえ側に居て下さるなら他に何も望みません』ってさ。」
「ああ、それね。」
「馨君さえ、って謙虚ぶってるつもりだったのかな。彼女が一番に欲しいのは馨なんだろうに。一番欲しいものを望んでおきながら、さも『控えてます』って顔しちゃってさ!馬鹿みたい。」
「んー、まあ凄くナンセンスではあるよネ。僕の気持ちは全部光のなんだから、これっぽっちもやる訳無いのに。」

ふふ、と柔らかく笑う馨。ああ馨、僕は幸せだ!透明な狂気は茜に映える。今また何かが僕を縛り馨を縛って壁を厚くして扉に鍵を増やして拒絶して断絶して遮断した。外の世界を憎んで生きる僕等に足りない物なんて何一つ無い。お互いさえ居ればもうそれで事足りるのだから。しかしあの愚かな女のように謙虚ぶっているつもりはない。最大の傲慢だと理解はしている。そう、傲慢だ。傲慢に強欲に、僕等は二人の世界を希求している。
絶対に誰にも邪魔させない。独りごちて馨を抱き締めた。



花と屑

title by joy

(前サイトより)


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