※性転換で、パン→←ブリ前提のパン←スト。
ストッキンはパンティが好きだから天使でいられないんじゃないかという捏造妄想。




 万物に対する慈愛を持ち、白い衣を身に纏い、祝福の光をもたらす。それがいわゆる天使という存在らしい。ならば、それならば。特定のものだけを偏愛し、ゴシックだけを身に纏い、暗闇を好む僕は、最初から天使などではなかったのだ。
 というよりも、再びパンティと向かい合って産まれ落ちる事が運命付けられた時点で、僕は天使として存在する事を止めたのだ。つまり僕は天使として生きた事なんて無かったという訳で。
 ――いや、死んだんだから生きてはいないんだけどさ。


「何処行くの、パンティ。」
「あ?あー、ちょっとショッピング。」
「……もしかしてギークガールと?」
「……よく分かったな。暇潰しに服でも買いに行くかって思ってたら、今日遊ばねーかってメールが丁度来たからさ。面倒くせーけど、ついでだよ、ついで。」
「そう、いってらっしゃい。お土産よろしく。」
「おー。とりあえず甘いモンで良いんだろ……っと、じゃ、いってくる。」

 目を鋭く刺す赤いシャツが、古ぼけたドアの向こうに消えていった。ガチャン、と一拍遅れてドアの閉まる音。更に遅れて、ブオン、とシースルーのエンジンを吹かす音。エントランスに反響する耳障りなそれらは、僕の鼓膜を容易に抉った。糞っ垂れ。
 何が「ついでだよ、ついで」だ、ファッキン腐れ野郎。ネックレスもピアスも、シャツもズボンも靴も何もかも全て、一番気に入っている奴を持ち出してきた癖して。この分では下着だって、どうせお気に入りのドルチェ&ガッバーナに決まっている。
 何より、アイツがさっき、辺りに撒き散らしていた香水の――あのスパイシーな香り。あれはグッチだ。「勝負用ならこれだろ」と、うざったくもしたり顔をしたアイツに、ガラスのボトルを見せられたのは、そしてそれを煮え滾る眼で眺めたのは、決して昔の事ではない。
 ――今の一連の流れが示すのは詰まる所、誰にも本気にならない男パンティに、本気の相手が出来たという事で。
しかしながらパンティは、自分自身の想いに全くもって気付いていない。お気に入りの洋服を手に取るのも、「勝負用」の香水を振り撒くのも、奴からしてみれば全て無意識の内の行動だ。だからこそ、余計にタチが悪い。パンティ自身は、ただ彼女をからかって遊んでいるだけだと思い込んで、微塵も疑っていない。「アイツなんか好きな訳ないじゃんっ、ただの友達だよ!」って奴か。何だそれ。少女漫画の純情ヒロインか。

「……よりによって何であんなモサい女な訳?」

パンティの選ぶ女はいつもグラマラスでドぎつくて、ケバい女ばかりだった。シャネルの紅を塗りたくった唇を動かして、ベッドへ誘う女達。纏う香りは甘やかで楚々としたイヴ・サンローランの癖に、それをわざわざぶっ殺すような下卑た化粧をする女達。それでも、ギークガールに比べれば、天国と地獄程の差もある華やかさと鮮烈さを放っていた女達だった。それがどうして。どうしてあんなギークを。ボリュームのあり過ぎる髪の毛に、まるでアーミーみたいな服。ファッションセンスはゼロ。いいやマイナス。最低じゃあないか。トーク下手でどもりまくるしドジだし間抜けだしオマケにオカルトオタクだし。最悪じゃあないか。
 全くもって、パンティがギークの何処に惚れたのか、僕には理解できない。よりによって、何故、あんな女を選んだんだ、パンティ。女の趣味が悪すぎる。意味が分からない。他の、今までのような女達ならば、まだ良かったようなものを。意味が分からない、分からない分からない。溶けきったジェラートのようにどろりとして、それでいてマグマのように熱い奔流が胃の底を埋めていった。黒いブラウスの裾を、苛立ち任せに握り締める。ミチ、と何処かの縫い目が裂ける音がした。
 いつものようにケバい女達が相手だったならば、僕は心の中でそいつらを思い切り馬鹿にする事が出来た。体が売りの中身の無い馬鹿女どもだと。けれど、ギークガールは違う。今までの奴等とはタイプが違い過ぎていて、それがパンティの本気を示すようで。馬鹿にしようとしても、上滑りの言葉だけが通り過ぎていく。反ってフラストレーションが溜まっていくばかりで、どうしようもない。遣る瀬無くて、どうしようも、ない。
 ――詰まる所、僕はパンティを愛しているのだった。天使として持ち得る筈だった慈愛や、肉親への情愛を越えて、それこそ色々な欲がカオスに混ざった愛を向けている。産まれた時から。パンティが僕の目の前に現れた瞬間から、本能的に愛していた。パンティは僕のカオスを知らない。パンティは、僕が、グッチの香りにどんなに想いを馳せているのか知らない。僕に対してだけ芳しく香るグッチを、どんなに求め焦がれているかを。それでいて、一向に僕には向けられる事はないグッチを、どんなに妬み憎らしく感じているかを。知らないのだ。

「グッチねえ……。」

 暫くの間辺りに留まっていたグッチは、気付けば少しずつ自分の存在を消していた。どうせ本当は僕の鼻が慣れてしまっただけなのだろうけれど、そんなナンセンスな事を考えたくはない。他の女の為に着けている香りに、どうして僕の鼻が順応しなくてはならない訳。うええ反吐が出る。
 恐らく、今頃はギークガールの肺一杯にこの香りが満ちているのだろう。そしてこのスパイシーな香りに似合わないような、色気も糞も無い笑みを浮かべているのだろう。そう思うと鼻腔が焼け爛れそうに不快になったので、自室へと続く階段に足を向けた。
 カミサマとやらはこの感情をきっと許しはしないだろう。神は自分の意に沿わぬ物に鉄槌を下すのが仕事だから。僕のこれは、禁断の何とやら。性別と血の繋がり的な意味で。神の御心に叶うものである筈がない。けれども仕方が無い。最早これは運命なのだから。
 パンティと向かい合って再び産まれ落ちたその時点で、彼を愛したその時点で、もう僕は罪を犯したのだ。万物なんて不特定多数を愛してなんていられる訳ないでしょ。そんなに僕暇じゃないんだよね。スイーツとアイツだけで十分右手も左手も一杯一杯だからさ。一度汚した手だって、もう二度と元には戻らないものだよ。どうせならもういっその事、とことんまで真っ黒に汚してやればいい。祝福の光も白い衣も糞喰らえだ。悪魔も案外悪くない。二度目の人生位好きな事させてよ。
 ――いや、もう人じゃないから「人生」じゃないんだけどさ。

「そういえば……これ何て名前の香水だったんだっけ。」



ENVY



グッチの香水はENVY(嫉妬)という実在の香水です。ENVYに誘われて嫉妬。

ちなみにイヴ・サンローランの香水=ベビードールのイメージです。

パンティが好きっていう禁断の想いのせいで天使でいられなくなっちゃったー(=悪魔)という妄想乙。

パンブリ前提としましたが、これがパンティ確信犯でストッキンにわざわざヤキモチを妬かせるためにENVY付けてるとかでも美味いなと思いました。パンスト両片想いね。そういう意味のENVYもありかなあと。



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