※津←←←サイと言い張りたい
ちょびっツ的な世界観で読んで頂ければ幸い
サイケがマジキチ、津軽が冷たいので御注意
安心の殺伐仕様




「たった一人の相手を愛する事と、たった一人の相手を憎む事。愛と憎の間には一体どれだけの差があるのかな。」

ねえ、津軽?
ショッキングピンクのカメラアイに覗きこまれて、俺の思考回路がざわりと蠢いた。これは警戒信号だ。有害な情報が混入する恐れがある。瞬時にパルスが全身を回り、俺の身体は少しだけ緊張状態に入った。
俺の目の前に居る“psychedelic”は、折原臨也のパーソナルコンピューターだ。ユーザーと違わぬ端整なフォルムをしていて、停止していれば美しい人形の様にも見えた。けれども起動を経て活動を始めた途端に、ウィルスでも混入されたかの様な、理解不能な行動を取る時がある。それが今、この時だった。

「俺達のマスターは『憎む事』を選んだ。相手を尽きる事なく嫌悪して憎悪して、そしてその果てに排除して削除したいと願っている。」

俺はあまりコイツが得意ではない。けれどそれは好悪の感情ではなく、適性が無いという事に過ぎないだろう。何故なら俺に、そしてコイツにも、感情という人間特有のシステムは搭載されていないからだ。
だからこそ、今、何故俺に対してそんな――不可解な「感情」の働きの極みである愛憎について――話を持ちかけているのか。俺には理解できなかった。
プログラムを総動員させてコイツの次の行動発言その他諸々の不確定要素を算出しようとしている俺に、コイツは、にこりと笑顔を作って続けた。

「だから俺は選ぶ。俺のマスターと君のマスターが選んだ選択肢とは違う方を選ぶ。どうせならその方が面白いだろうからね。」
「――俺を愛するとでも言うのか。」
「うん、そうだよ。俺は津軽を愛する。」

遂に俺の中でアラートが鳴った。
コイツの寄越した答えが、余りに予測の範疇を越したものだった為に、視覚システムが一時的にビジー状態になったらしい。一瞬だけ目の前に極彩色のノイズが走る。まるで、それは人間の身体不調の一種「眩暈」のようだった。“psychedelic”という可笑しな名前の通り、幻覚でも起こされたか。――いや、こんな馬鹿馬鹿しい事を考えてしまうなんて、俺の方が可笑しい。何処かプログラムが欠損したのだろうか。

「黙っちゃって、どうしたの、津軽?……あっ、俺の告白が嬉しかったとか?そうなの?」
「有り得ない。――俺達に感情は無い。あるのはプログラムだけだ。」
「勿論分かってるよ。でも俺はどうしても津軽を愛したくなったんだ。俺は津軽を愛する為に何をしたら良いのか。俺達は人間のように非合理な活動はできない。俺は、俺の中の精密なプログラムが弾き出した結果に従って行動するしかない。そして出た結果は――、」

津軽を取り込めば良いかなって。
ふ、と静寂が走る。今の発言をロードするのに大層な時間が掛った気がしていたが、どうやらそうではないらしい。サイケの顔に貼り付いた笑顔が、ロード前と1ピクセル程も変わらない事がそれを示していた。
やはり俺はコイツに適性が無い。コイツと向かい合うだけで、ざわりざわりとパルスが俺の回路を刺激し苛む。

「ね、どう?どうかな、津軽?」
「拒否する。俺をデリートでもする気か。」
「違うよ。取り込んで同一化するんだ。一度壊して、俺の中で再構築する。……あ、結局一回はデリートするから同じかあ。」

サイケは蟲惑的な笑みを浮かべた儘、その目の痛くなるような濃いピンク色の義眼で、俺をじっとりと見詰めてきた。ハックでもされたら堪らないと、無言でファイヤウォールを作動させる。
やだなあ津軽、今すぐ融合しようとか考えてないよ。大丈夫、俺は焦ってない。
コイツに関して、俺が不得手とするのは、この態度だ。自らの非を認めない、と言うよりは、非なんてある筈もないそれが当然だと言わんばかりのこの態度だ。笑い方だけは、折原臨也をトレースした、それこそ悪意が透けて見える様な笑顔を作る癖に、中身には全く邪気や悪意という物が無い。
コイツは純粋にプログラムに従っているだけだ。だからこそ対応が遅れる。そして今も俺は後手に回っている。

「……それは本当に愛なのか。」
「さあ?……でもさ、人間も言うじゃないか、『愛し合う二人は一緒に居るべきだ』って。だから、本当に一緒になれば良いかなと思って。人間にはできない方法だよ。これって凄いよねえ。もしかしたら人間よりも進化した愛の形って奴かも。」
「それ以前に、俺が御前と愛し合った記録は無い。……御前と臨也はよく似てる。あまり理論的でない答えを出す所が。」
「愛に理屈も理論もいらないって臨也が言ってた。」

参照先が折原臨也では、明らかに信用に足るソースでは無い。
しかし折原臨也という人間以上に、愛という感情など、俺には到底理解出来ない。そしてそれが同じ機械から、よりによってサイケから向けられる愛なんて、余計に理解不能。受け入れる以前の問題だ。
最早コイツとは会話も意味を成さない。コイツの声を聞いているだけで、回路がざわざわと不快に疼いて仕方無い。
既に聴覚システムを遮断し始めていた俺の耳に、サイケの続けた言葉が届く事はなかった。


「愛なんて、原因も過程も結果もどうだって良いんだよ。人間だって誰一人、正しい愛なんて知らないんだから。これが愛だって言えば、それは愛になるさ。」




よくある恋愛擬き

title by joy



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