※ニル刹
2期と劇場版の間辺りをイメージ。ネタバレはありません。




浅い眠りの中で夢を見た。


彼が居て、俺が居た。
視界が白々と、何もかもが空気に融けて霞む中で、彼の存在だけが輪郭を保っている。夢の中の彼は在りし日のまま、かつて失われた碧い瞳も在るべき場所に還っていた。その瞳の美しさは変わらない。天上人として彼が守ろうとした地球、それを覆う、冷たくも暖かい海の色をしていた。俺は彼の瞳が好きだった。滲むように微笑む時に、穏やかに凪ぐその色が好きだった。

「ロックオン、」

呆けた俺の口からは、情けなくも小さな音しか漏れ出なかった。
彼の名前――正確には、彼の名前だったもの。今はもう、彼の弟の名前でもあるその響き。

「ロックオン・ストラトス。」

返事を返される代わりに、少しだけ首を傾げ、慈しむ様にゆるりと目を細められた。柔らかな容貌の彼によく似合うその仕草を、以前は何度も目にしていた。そのありありと示される情愛の眼差しは、久方ぶりに見ても、決して変わっていなかった。
今はもう時を止め、不変となってしまった彼に対して、俺はどんな表情を返せば良いのだろうか。迷うこの瞬間にも、真綿で包まれ庇護される様なこの気配が懐かしくて、綻ぶ心を止められなかった。

「……ロックオン、世界は未だ変わり切らない。」

折角夢で会えたというのに、この類の言葉しかまず出てこない自分に、苦笑を隠せない。
それでも彼は笑っていた。お前らしい、と言われている様な気がして、少しだけ瞼が震えた。

「俺はあと幾つの傷を繰り返し、幾つの運命を受け入れれば良いのだろうか。俺に終わりは来るのか。――たまにそんな事を考える。けれど、世界はきっと変わる。俺が生きていた世界は、お前が守ろうとした世界は、必ず変わる。お前が俺を変えた様に、世界は人によって変わる。」

不意に、彼から腕が伸ばされた。決して熱くはないけれども、小さく火の灯る様な暖かさが、俺の頬を包んだ。そうして控えめに、瞼の上にキスを落とされた。かつては引き金を引き数多の命を奪った手が、俺を守り慈しんでいる。攻撃を宣言した唇が、愛情と憧憬を表している。笑えない話だった。惨い話だった。けれども俺はかつて、確かにそこに安息を見出していた。そして、それはやはり今も変わらない。
この安息を人々が知れば、争いは消える。世界は変わる。
俺達が望んだ未来が、きっと花開くのだ。

「お前が教えてくれたんだ、赦す事、愛する事と、生きる記憶の尊さを。だから、きっと世界は変わる。変えてみせる。だから――、お前の目の前にきっと、新たな世界を広げるその日まで、俺を待っていてくれ。ニール。」

(ああ、待ってるよ。)

頬を伝う彼の手に手を重ねようとした所で、彼は消えた。


――浅い眠りの中で夢を見た。

そっと目を開けば、俺は見慣れた部屋の風景の中にいた。白々と淡く揺らめく夢の中ではなく、未だ小さな争いが芽吹く現実の世界。
落胆をしなかったと言えば嘘になるが、決して悲しんではいない。
未だ覚えているのだ。向かい合った時のあの温もった気配を、空気を痛めぬ様に触れられたその感覚を。
そして感じている。血脈と同じ様に、彼が身体中を駆け巡っている。凪いだ海の様な瞳の色、暖かに滲む笑い方、灯火の揺らめく体温、彼の名前と彼の記憶。小さな欠片が集まって、零れそうな程に満ちている。

浅い眠りの中で夢を見た。
醒めて尚、彼は俺の中に居る。



確かに君は温かく響く鼓動の奥で



title by joy
image song:SEASON'S CALL/SHALLOW SLEEP(HYDE)


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