※ニール(24)×刹那(16)/1期
現パロのようなそのままのような。9割妄想。



優しさと温かさを含んだ甘い匂いがふわりと漂い、鼻先をくすぐるので刹那は目を覚ました。ソファの上で縮こまっていたらしい体が軋んで、背中が小さく痛む。少しだけ身を起こせば、深い緑色をしたブランケットが擦れて乾いた音を立てた。目蓋の重さに逆らわずに、薄く開いただけの目で窓の外を見遣る。窓枠で区切られた小さな空は、水色に少しだけ桃色と橙色を混ぜたような色をしていた。

「お、起きたか。」
「……、」

キッチンから顔を覗かせたニールに、満足な返事をする事もできない。あまりにも穏やかな目覚めをしてしまった事に、刹那は戸惑っていた。伏せた眼をせわしなく右へ左へと揺らしながら、何か言いたそうに唇を動かしている刹那を見て、ニールは小さく笑みを含む。ニールはゆったりとした足取りでソファまで近づくと、寝ている間に妙な癖が付いてしまったらしい、自分よりも小さな彼の黒髪を撫でつけた。

「よく寝てたな。」
「……アレルヤとティエリアは、」
「ああ、お前が寝てる間にスメラギさんに呼ばれて行ったよ。……そろそろ戻って来るんじゃないか?」

そうか、と小さく呟いた刹那は一瞬だけニールへと視線を持ち上げ、そしてまた目を伏せた。俯きがちに目を伏せるのは、刹那が何かを考えたり迷ったりする時にする仕草だった。それを分かっているニールは何も言わない。浮かべた笑みをそのままに、刹那の声が部屋の空気を震わせるのを待った。

「……ミルクの匂いが、して……それで起きた。」
「ああ、今ミルクティーを淹れてたんだ。スメラギさんが良い茶葉をくれたからさ。」
「ミルクティー……。」

アイリッシュのニールは、コーヒーよりも紅茶を好んで飲む。手先が器用な事と少しばかり凝り性の性格が幸いしてか、ニールの淹れた紅茶は美味しく、たちまち周囲で評判になっていた。特に、アイリッシュ慣習のミルクティーは一番の人気の的となっていて、彼自身も進んで淹れている。

「飲むか?」
「……飲む。」
「了解。」

ニールがミルクティーをよく淹れるのには、ゲストからのリクエストや母国の慣習といった理由の他に、もう一つだけあった。それが、刹那だった。
刹那は、もともとあまり食物に頓着する性質ではなかった。それは好き嫌いがないという意味でもあったが、食べる事自体に興味がないという意味でもあった。他の事にかまけて、平気で丸一日何も食べない時もあれば、水分を中々取らない時もあった。それはニールも含めた周りの悩みの種でもあったのだが、それを解決したのが、ニールのミルクティーだった。
刹那は、ニールのミルクティーを何より好んだ。そしてニールがそれと共に食事を出せば、刹那は進んで物を食べるようになっていた。
初めてニールがキッチンで皆の為にミルクティーを淹れていた時、ひょこりと現れた刹那の興味に満ちた赤褐色の瞳を、ニールは今でも覚えている。俯きがちに目を伏せた後、自分にも淹れてほしいと、何故だかばつが悪そうに言った刹那の姿を、今でも覚えている。そして、普段から言葉の少ない刹那の「おいしい」という言葉も、ちゃんと覚えていた。

「そうだ、おまけにクッキーも付けてやるよ。さっきフェルトが皆で食べてくれって持って来たんだ。多分手作りだな、あれは。」
「……ティエリアとアレルヤが未だ居ない。」
「刹那はそういう所固いよなあ。良いんだよ、バレなきゃな。」
「……まったく、」

刹那の呆れ交じりの苦笑と小さなため息は見ないふりをして、ニールは自分よりも少しだけ色の濃い肌をした額へと唇を落とした。それでも動じずに自分をひたと見上げて来る刹那に、肩を竦めて笑って見せる。

「今すぐ用意してやるよ。今日のはいつもより良い出来だから。」

くしゃりと少し荒く刹那の頭を撫でたニールは、ソファに背を向けてキッチンへと足を向けた。刹那はその背中を眺め、そしてその向こうの窓へと目を遣った。窓枠の中の小さな空は、いつの間にか先程よりも赤味を増している。
お茶の時間にするには少しばかりもう遅いけれども、それでも構わないと思わせる、ミルクの香りに似た甘やかな空気がたしかにそこにはあった。



サンセット・ミルクティー



親子愛と恋愛の狭間。


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