※某新撰組漫画で千代が大好きなキャラの台詞が余りにも臨也だったので言わせてみた。
一応情事前。超軽度の暴力描写?
色々考えたら負け。



「俺は、ある意味ではシズちゃんに対してこの上無く優しい。」

一糸纏わぬ身体からゆらりと伸ばされた臨也の両手が、自らに覆い被さる静雄の両の頬に添えられた。その白い腕と手、そして指が、薄暗い部屋の中で、ぼんやりと発光するかの様にその存在を示している。その指の先に存在する、臨也のよく整えられた爪が、窓から密やかに侵入する外界のネオンの光の一片を受けてぬらりと光った。
臨也は、自分が今しがた発した言葉に至極満足している事を静雄に見せ付ける様に、その唇の端をゆるりと引き上げる。続いてその切れ長の目を細め、ゆったりと一つ、瞬きを。そして最後に、静雄の目尻を、添えた手の指先で柔らかく撫でた。それは、自らの言葉通りの「優しさ」を示す行為の様にも見えたが、その実は全くもって真逆の、静雄に対する単なる「嫌がらせ」でしかなかった。事実、相対する静雄の表情からは、臨也の行為に誘われた嫌悪がありありと表れている。

「……誰が『優しい』って。」
「あれ、聞こえなかったかな?『俺』が、だよ。」
「馬鹿言うな。」
「全く言ってないつもりだけど?……それに言っただろ、『ある意味』って。」

悉く軽い調子で返して来る臨也に対して不快感を露わにしながら、静雄は、自分の頬に纏わり付く指先を乱雑に払った。それに対して何を抗う事も無く、重力に従って臨也の腕はシーツの上に落ちる。白いシーツの上にあっても、何らその存在感を失う事の無い白い腕は、静雄の目には少しばかり気味が悪く映った。
先程の臨也とは違った意味で目を細める静雄に構う事なく、臨也はその歪んだ唇を機嫌良く動かした。

「俺はシズちゃんに『死ね』って言うだろ。だから優しい。……ああ、『意味が分からない』って顔をしてるね。」
「……。」
「沈黙は肯定と受け取ろう。……そうだな、シズちゃんは『来世』を信じる?」

臨也の思考回路は常人には理解しにくい。今回もまた、今までの会話の流れとはまるで関係無いかの様に思われる台詞が、突如としてその口から飛び出した。何度もこのような流れを経験している静雄ではあったが、何時まで経っても苛立たしさを感じる事には違いない。ぶわりと胃の奥の方から吹き出す苛立ちに気持ちを荒くさせながらも、静雄は何とかそれに耐え唇を引き結び押し黙った。
対する臨也はそんな静雄の心情など百どころか千も万も承知であり、黙りこくる静雄の様子を、何か滑稽な見世物でも見る様な面持ちで眺めていた。

「また、沈黙は肯定と受け取っても良いのかな?……まあ、正直な所、君が来世を信じていようがいまいが関係はない。俺は、信じている。前は、来世なんか無いと思っていたけど、今は少し信じているよ。神様って奴は今でも信じる気にはなれないけどね。」
「……で、何なんだよ。」
「まあ聞きなよ。そう、俺は来世を信じている。けれど、『信じている』という事が、来世の存在の証明にはならない。俺が幾ら信じていようとも、本当に死後の世界があるかどうかは話が別だ。実際は無いかもしれない。それは死んでみないと分からない。――ただし、ただしだ。一つだけ死ぬ前から分かっている事がある。何だか分かるかい。」
「知るか。」

臨也の御託に更に苛立ちを募らせ、静雄は、挑発染みた臨也の問い掛けを短く一蹴する。「もう何も口にするな」と鋭い眼光で此方を睨んで来る静雄など意にも介さず――もしくは、彼のそんな表情すら楽しみながら――臨也は再び、静雄の方へと腕を伸ばした。臨也の細く白い指が、先程と同じく静雄の頬に這わされる。

「素直で結構。……俺が分かっている事は、『死んだ後の方が今生きている世の中よりも楽だろう』という事だよ。死後の世界なんて実際にあるかどうかは分からないが、仮にあったとして、そこで起きる事象がこの世の雑事よりも勝る事があるだろうか。俺はね、思うんだ。どんな絶望も屈辱も、あらん限りの苦しみは全て、生きているからこそ味わう事が出来るものだ。世の中に自分以外の人間が存在し、その悪意に陥れられてこそ、人間は苦しみを味わう事が出来る。逆もまた然りだ。希望も幸福も、他の人間が居てこそ誘致される。天国だろうが、地獄だろうが、生けるこの世の中に勝るものは無い。……何度も言うけれど、実際にあるかどうかは別だ。その意味では、天国も地獄も、想像の産物とも言える。――ああ、そうだ。」

そこで臨也は一呼吸を置いた。
目を一度伏せ、また開き、そして細める。男にしては長い睫毛が、上下の瞼の間の隙間を埋める様に、濃く黒く影を作る。束の間力の抜けていた唇も、再び細くしなった。シーツに散る黒髪や、指先の爪までもが、ネオンの僅かな光を取り込みゆらりぬらりと艶めかしく光る。

「そうだ。『天国』なんてのは貪欲な人間の欲望だ。『地獄』なんてのは無力な人間の僻み妬みの妄想だ。『天国』に勝る幸せも、『地獄』に勝る苦しみも……全てはこの世の中にある。……だから『死ね』と言ってあげている俺は優しいんだ。シズちゃんに『地獄』よりも苦しいこの世の中から救ってやろうと言うんだからね。」
「……同時に、『天国』よりも幸せな世の中から消えろって言ってるって事だろ、それ。」
「ああ……分かっちゃったの。」
「手前なァ……。」

静雄は怒りの琴線を本格的に震わせ始める。そんな彼ににやりと笑い返してやりながら、臨也は静雄の頬に這わせた指先に力を込めた。左の手はそれでも添えられたままの態ではあったが、反対の右の手の指は力に任せ突き立てられ、静雄の肌にぎちりと食い込んだ。臨也の爪は短く整えられている為に、皮膚を切る事は無かったが、それでも赤い線が静雄の皮膚に徐々に伸ばされていく。ぎちぎちと、静雄の右頬に幾らかの毒々しい赤線を刻みこむと、臨也は指先から力を抜き、労わる様に静雄の頬を撫でた。
もっとも、そんな態度とは裏腹に、続いて吐き出された台詞は慈しみなど微塵も感じさせない。

「シズちゃん。俺はねえ、君の幸せも苦しみも、全部奪ってやりたいんだ。今みたいに、爪を立てて、痕を残してやりながら。」
「……手前はつくづく下衆な奴だな。」
「ハハ、どうもありがとう。」

例の皮肉気な笑みを存分に振り撒きながら、臨也は軽く笑い声を上げる。そうしてそのまま、添えた手で静雄の頭を引き寄せた。臨也の歪んだ唇が、静雄のそれへと当たる。
意識的に開かれた臨也の唇の隙間から、舌を侵入させながら、静雄は考える。来世の有無など知らないが、もし本当に来世が存在し悪魔が居たならば、臨也の様な笑みを浮かべているに違いない。
――もしくは。

「……手前は悪魔以上に最悪な奴だ。」

とはいえ、それを生けるこの世の中で確かめる術は無く、死んで確かめる気も毛頭無いのだが。



おにあくま



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