※静←臨+モブ♀
モブ♀は原作ネタからの創作。臨也信者のゴスロリ少女。ある意味臨也夢…?
且つ後味悪い話。シズちゃん大好き!な方には向かないです…。



毎日、私は大好きなメゾンの洋服を着る。今日、私がクローゼットの中から取り出したのは、フロントに沢山のフリルが付いた白いワンピース。スカートの中にどっさりとパ二エを仕込んで、お姫様のドレスのようなシルエットを作り出す。足にはレースの付いたハイソックスと、ピンクのロッキンホースバレリーナ。勿論、ヘッドドレスも忘れない。私のクローゼットの中には、当然だけれど私が気に入った洋服しか入ってない。でも今日は、お気に入りの中でも更にお気に入りの物を選んだ。だって今日は特別だから。臨也さんに、会いに行く日だから。
私は、「新宿」という街があまり好きじゃない。車が沢山走っているから空気が汚れているし、高層ビルがあちこちに乱立しているから圧迫感があるし。何より、人が沢山蠢いているから、何だか気持ち悪い。でも臨也さんはいつも、人間が好きだと言って笑うから、私はそんな余計な事は言わずに黙っている。私は、臨也さんがこの街に居るから来ているだけ。だからもし彼がこの街から消えてしまったら、もう二度と此処へは来ないだろう。そしてそんな時が来たら、こんな街、一思いに壊れて滅びてしまえば良いのになあ、と埃と塵に塗れた空の下を歩きながら思った。

「こんにちは、臨也さん。」
「やあ、いらっしゃい。」

街の中心部から少し離れた臨也さんのマンションまで行くと、彼はゆるりと微笑んで私を出迎えてくれた。臨也さんの笑顔は私をこの上無く幸せにしてくれる。だから私も、その幸せを目一杯表すように微笑み返した。部屋の中に通されて、私は大きな革張りのソファの端っこに腰掛ける。スカートの後ろが皺になってしまわないように気を配りながら、膝と膝をきちんと付けた。すると何処からか良い香りが漂って来て、波江さんがミルクティーを出してくれた。甘い香りが私の中をすうっと通り抜ける。

「今日はどうしたの。何か俺に、助けて欲しい事でもあったのかな。」
「いいえ、臨也さんに会いに来ただけです。」
「そう。」

向かい側に腰掛けた臨也さんの表情は、私を先程出迎えてくれた時の微笑みと、今も寸分も違わない。私ごときでは、どんなにお洒落をしようと、どんなに臨也さんに会えた喜びを表そうと、彼の心に一雫分の波紋を落とす事すら叶わないのだ。けれど私はそれで良いと思っている。私にとっては、臨也さんが、私の姿をその赤い目に映してくれて、私の言葉をその綺麗な形の耳に入れてくれて、私にその薄い唇を動かして返事をしてくれる、ただそれだけの事実が何よりも大切なのだから。
そうして私は一人勝手に恍惚と酔いしれながら、臨也さんが自分のカップに口を付ける様子を眺めていた。けれど私の目は、小さなカップを持ち上げた彼の手に釘付けになってしまう。その手の甲には、痛々しい大きな青紫の痣があった。

「臨也さん、それ、どうしたんですか。」
「え?ああ……ちょっとね。」

私は「ちょっとね」の向こう側の理由に想像が付いた。池袋の自動喧嘩人形、平和島静雄。きっとその痣は彼との喧嘩によるものだろう。私は、彼を見た事がなければ、ましてや口を利いた事もない。けれど臨也さんと平和島静雄が、喧嘩と呼ぶには甚だしい暴力を頻繁に振るい合っている事は、有名な話なので私も聞いている。平和島静雄。臨也さんに傷を付けるなんて、万死に値する行為だ。有り得ない。

「ちゃんと、湿布とかした方が良いと思いますよ。」
「いや、良いんだよ。……こうやって目に付くように残しておいた方が、効果的に記憶に残しておけるからね。」

臨也さんの語調は私を諭すようなものであったけれど、その実、私の存在なんて眼中にも無い、ただの独り言のようだった。しかも、先程まであれ程狂いなく精密に保たれていた微笑みは、今は嫌悪に満ちた歪んだ笑みに変わっていた。鋭い光を宿した目で、憎々しげに件の痣を睨んでいる。私はその姿に、ああ、平和島静雄という男はこうもたやすく臨也さんの心に侵入するのか、とまざまざと見せ付けられた思いがした。そして、平和島静雄に対して、私はより一層憎らしく思うと同時に、妬ましくも思った。
臨也さんの心は、私が思うに半分に分かれている。片方は、私を含めた世界中の人間達への愛。そしてもう片方は平和島静雄への嫌悪。けれど多分、その嫌悪は一般的なそれよりも深く深く、臨也さんの存在の一番奥にまで根ざしている。私達人間は束になっても臨也さんの心の半分程しか埋められないのに、平和島静雄は、たった一人で、臨也さんの心の半分も占拠しているのだ。何て羨ましい。臨也さんの執着を一身に受けられるなんて。何て妬ましい。もう本当に疎ましくて仕方が無い。嫉妬、憎悪、その他沢山の黒々とした感情が熱い蒸気のようになって私の頭の中に濃く立ち込めていく。その内に、段々と私の白いワンピースまでが黒く染まっていくようにすら感じて、尚更不愉快になった。

「――ますように。」
「……ん?何か言ったかい?」
「いいえ、別に。」

もうすっかり冷めてしまったミルクティーに口を付ける。ぐつぐつと煮え滾っていた頭の中が徐々に冷まされていくような心持ちがして、私はそっと息をついた。大丈夫、私のワンピースも清い色のままだ。
言っておくけれど、私は神様を信じていない。臨也さんが神なんて居ないと言っていたから、私も信じない事にしている。それならば、一体今の願い事は何処に届くのだろうとぼんやり考えながら、臨也さんと同じ空間に居る事が出来て、同じ物を口に出来る喜びに微笑んだ。


平和島静雄が、臨也さんの心の内から一片の塵芥も遺さず消え去ってくれますように。



星に呪いを



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