※一応来神時代。+双子(過去捏造気味)


ねえ、「ニンゲン」って不思議だよね!すっごく不思議!人類、人間、ひと、ヒューマン!呼び方は何だって良いけど、私は「ニンゲン」以上に不思議なイキモノは居ないと思うな。だから私は、ううん、私とクル姉は「ニンゲン」に凄く興味がある。憧れる。だって、ねえ、そもそも考えてみてよ!ニンゲンってつまり、我が家のどうしようもなく奇妙で偏狂な不肖の兄が臆面も無くラブラブ叫んじゃう相手なんだよ?どうしようもなく大変な変態のイザ兄をあんなに夢中にさせちゃう相手なんだよ?ね、気にならない筈が無いでしょ!もう自然の道理ってやつだよね。人類、人間、ひと、ヒューマン!「ああもう『ニンゲン』って一体何だろう」なんて考えていく内に、イザ兄のみならず私達まで更にその魅力にずぶずぶハマっちゃった訳だ。
それでね、「ニンゲン」についてクル姉と沢山考えて、色々試した結果、すぐに分かった事があった。それが「『ニンゲン』の不完全さ」。「ニンゲン」は何処までも不完全な存在で、出来ない事や足りない物が沢山あって、「限界」の二文字がそこかしこを取り巻いて包囲しているんだ。「ニンゲン」は不完全。それは絶対に変わらないルールで、真理って奴らしい。つまり「ニンゲン」は、「不完全な状態」が、「完全な状態」らしかった。矛盾してるよね!「ニンゲン」は不完全で、不完全っていうのは足りない事だから、「ニンゲン」は何かが足りないけど、それが当たり前なんだって。でもさ、私とクル姉は気付いちゃった。「ニンゲン」は足りないのが当たり前だけど、「足りな過ぎる」のは当たり前じゃないって事に。不完全を通り越せば、「欠落」になるって事に。
私達が思うに、イザ兄は足りな過ぎる人だった。何が足りな過ぎるのかは分からないけど、周りに生きる他の「ニンゲン」よりも何かが圧倒的に欠落してた。イザ兄自身は、自分に何かが足りていない事に多分気付いていない。楽しそうに毎日「ニンゲン」に愛を囁いたり叫んだりしているだけ。だから私達にはおかしかった。イザ兄は「ニンゲン」を愛しているのに、イザ兄自身はちっとも「ニンゲン」らしくないだもん!それはイザ兄にも秘密の、私とクル姉だけが気付いていた事実だった。イザ兄には何かが足りない。でも一体何が足りないんだろう。クル姉と考えてみたけれど、余りの出る割り算をずっとしているみたいに、何時までも答えは出てこなかった。
けれどある日急に答えはやって来た。

「イザ兄、最近よく怪我してるね!今日は何?転んだ?階段から落ちた?ダンプに轢かれた?」
「轢?」
「違うって。……全部、シズちゃんのせいだ。」

シズちゃん。イザ兄が高校に入学して出会った人。本当の名前はヘイワジマシズオさんっていうらしい。凄く強い人みたいで、イザ兄はしょっちゅう制服を泥だらけに、体を傷だらけにして帰って来た。でもそんな事はどうでも良くて!私達が驚いたのは、今までずっと愛ばかり語っていたイザ兄の口が、嫌悪も語るようになった事だった。

「俺は人間が好きだ。愛してる。不完全で愚かで醜い所も含めて愛してる。でもアレは駄目。シズちゃんは駄目だ。愛せない。寧ろ反吐しか出て来ないよ。アレのどんな面を以てしても俺は愛せないね。愛せない。愛せないよ!」

そこで私達は分かっちゃったんだ。私達がずっと探してた答えは、ヘイワジマシズオさんだったんだって!でも、正確に言うとちょっとだけ違う。イザ兄に足りなかったのは、その答えは、「嫌悪」だった。イザ兄はどんな事でも愛に変えちゃう変態だから、他の「ニンゲン」達が持っていて当然の嫌悪を今まで持ってなかったみたいだった。イザ兄の周りにはずっと「愛すべき『ニンゲン』達」しか居なかったから、誰かを嫌う事も憎む事も無かったんだろうね。でも、ヘイワジマシズオさんと出会って、イザ兄は嫌悪を知っちゃった!イザ兄は足りな過ぎた嫌悪を得て、やっと「ニンゲン」らしくなったようだった。
それにしても、ヘイワジマシズオさんってどんな「ニンゲン」なんだろう?ヘイワジマシズオさん。イザ兄を「ニンゲン」にしてくれた「ニンゲン」。

「ねえねえ、ヘイワジマシズオさんってどんな人?ねえねえ!教えてイザ兄!」
「教?」
「シズちゃんがどんな奴かって……?教えないよ。」
「えー!?何で!?」
「何?」
「シズちゃんの事なんて、俺が知ってればそれで良いからだよ。」
「……イザ兄……?」
「ま、この俺が唯一愛せない人間だって事は教えてあげる。……俺はちょっと用があるから出掛ける。二人は宿題でもしてなよ。」

イザ兄は今まで弄っていた携帯を閉じると何処かへ行ってしまった。イザ兄は何処に行くんだろう。イザ兄の大好きな「ニンゲン」の所かな、それとも――。

「……ねえねえクル姉、さっきのイザ兄の台詞って何かさぁ、あれだね。」
「……恋?」
「あ、やっぱりクル姉も思った?もう正しく恋する乙女の台詞だよね!……まあ言ってる時の顔は悪魔みたいだったけど!軽く人を2、3人滅して来ちゃった後の悪魔の顔だったけどー!」
「酷……。」

イザ兄は何処に行ったのかは知らない。でもきっと今日も傷だらけで帰って来る。今日もきっと「ニンゲン」らしい顔で、愛と嫌悪を口ずさみながら帰って来る。

「あー、ほんっとに『ニンゲン』って不思議だよねえ。私達も早く『ニンゲン』になりたいねっ!」
「真。」



ストレンジャー



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