ミルクとメロン





北海道は寒い。それはもう凍えるほどに寒い、と思っていたけれど夏は夏で普通に暑かった。年に一度の修学旅行、飛行機で北海道へ飛び立つ前にしおりを見ながら予定を立てている期間に煉獄先生に「北海道って寒いですよね?」と聞いてみれば、「今の時期の北海道は暑いぞ」と言われたのだ。実際そうだったのだけれど、それを嘘だと思ってしまって今更謝罪をしたい。だって煉獄先生だから、いつでも暑がってそう、なんて。訪れた場所は、一応持ってきたセーターなんていらないほどに緑が瑞々しく生い茂っていた。
まあ、それはともかく。そんな暑さに額にたらりと汗をかきながら、ブロックが敷き詰められた一本道で私は模索していた。

「なまえ」
「……うーん……」
「ねえ、なまえ」
「おわ!……無一郎くん!」
「何してるの?ふらふらどこか行くのやめてくれない」

どうしようか、どれにしようかとこの一本道を一人ずっと往復して何周目かというところ、真横から声をかけられ歩みを止めた。無一郎くんは隣のクラスだけれど、今は自由時間だからこうして一緒にいることができる。にも関わらず、私は悩みに悩み一人の世界に入ってしまっていたのだけれど。
奇妙な行動をしていた私を不審そうに見ている。
周りには学園の生徒がちらほらと。手にはこの道に並んでいる売店のソフトクリームを持って北海道のミルクを堪能している。

「いやあ、迷っちゃって」

探しているのは、決してセーターの代わりの衣服ではない。
この一本道には見事なまでに全てに惹かれてしまいそうなソフトクリーム屋さんが並んでいる。食べ比べをしながら風情ある一本道を歩くのが楽しみ方の一つらしい。けれども他にも色々と食べたいものがきっとこの先出てくるだろう、なんたって北海道だ。海の幸だって待ち受けているはず。だから、心を鬼にして一つに絞ろうとしていた。おかげさまで悩み歩いた結果、額には汗がじんわり滲んでいた。

「二つには絞ったの!」
「どこの店?」
「赤と白のパラソルが置いてあるお店と、この緑色のお店」

目を細めながら尋ねる無一郎くんへ指をさして教える。
都心のソフトクリーム屋さんのイメージを覆すような昔ながらの雰囲気を漂わせるお店だった。窓口の脇に設置されているソフトクリームの置物がまたレトロ。
私が示したお店を無一郎くんも目で追った。

「食べ比べればいいんじゃないの?食べれるでしょ、いつもコンビニで帰りにアイス食べてそれから夕ご飯なんだから」
「いやいや、夕ご飯までにまだ美味しいものの旅は続くから!」
「じゃあ一緒に食べよう」
「一緒に?」

私が首を傾げていると、立ち竦む私を置いて一人無一郎くんは髪をなびかせながら木漏れ日が差す建物の窓口へ行く。一つください、とソフトクリームを注文して受け取っていた。

「二つに絞ってるなら二人で食べればいいでしょ」

口にしながら、はい、と無一郎くんは私の口元へ甘い香りを漂わせる真っ白で柔らかそうなソフトクリームを差し出した。とても艶めいている。
なるほど、と感心しながらそのソフトクリームにかぶりつく。きめ細やかなクリームは口の中であっという間にに蕩けていく。ミルクの味が濃厚、これが北海道の味だ。美味。

「美味しい?」
「とても!」

私に尋ねる無一郎くんにそう告げると、無一郎くんは小さく笑みを浮かべて私が一口かぶりついたソフトクリームを口にする。

「ほんとだ、美味しい」
「ね!」

冷たいそのアイスさえも溶けてしまうほどに、今日は熱かった。
一つ目のアイスクリームを食べ終わり、悩んでいたもう一つのお店へ向かう。たまに見せる呆れたような笑顔も、こうして暑いけど、短い距離だけど、それまでで私が手を差し出せば嫌な顔一つせず手を繋いでくれるところも大好きで。
お店に着いて今度は私が払うために窓口で注文しようとしたけれど、問題が発生した。異変に気付いた無一郎くんが何してるの、と眉間に皺を寄せる。

「無一郎くん、どうしよう」
「何」
「夕張メロンとミルク、どっちにしよう!」

窓口で頭を抱える私を見て、無一郎くんがため息を零したのが聞こえた。

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