涙するはいつかの子供

キンッ…と高い音が鳴った。弾かれた剣に思わず舌打ちをしてしまって、レミエルがいるいないに関わらず、コレットが望めば天に導かれてしまう。剣が弾かれた理由は恐らく魔術みたいなものだろう。コレットが不思議そうな顔で私を見ていた。

そして、私が剣を再び向けようとした瞬間に、激しき爆音と地面が削られる音、それから強い光と同時に腕を引かれる。目の前には朱が広がっていた。


「うんセレネ!悪い、逃げられた」
「シエル、貴方悪いと思ってないわね」

さっさと仕留めろ、と顔を向ければ苦笑いしていた。剣を持つ手を握られていて、無理すんな、と言われている気がして。思わずそれを振り払えば、呆れたようにため息をつかれた。


「コレット!戻ってこい!!俺が必ず元に戻してやるから!!…コレット、本当に俺のこと、忘れちまったのか?」

ロイドの声が聞こえて振り返る。そこには、先程まで辛そうな笑顔を浮かべていたコレットが虚ろな表情をしていた。しまった、と呟く。今此処にあの天使はいない。となれば、コレットを天に導くのは…あいつだ。


「ロイドたち、守りながらじゃさすがに俺らでもキツイかな」

自傷気味に笑ったシエルの背中を叩く。確かに、そうかもしれない。コレットはあんな状態だ。このまま、天に導くなんてことはさせない。こんな浅ましい世界の理、勝手に造られた世界の理は壊すべきだ。かつてのように、


「無駄だ。その娘にはお前の記憶どころか、お前の声すら届いていない。今のコレットは死を目前にしたただの人形だ」
「クラトス!お前、今まで…っ?!」
「ロイド、近付くな」

先程までシエルと戦っていたはずなのに、あまり傷がないのが分かる。結構手強いというところね。
クラトスに近付こうとしたロイドの腕をシエルは掴んだ。驚いたように振り返るロイドをそのままにして、シエルはクラトスに向き直っていた。



「セレネ、あとで説明してくれるわね?」
「……するから、睨まないでくれるかしらリフィル…怖い」

突き刺さるような冷たい視線。敵意ではないのは分かる。しいなが、リフィルを止めようとしているのも分かるが、それを制した。話す必要もあるし、みんながそれを知る権利もある。シエルと睨み合うクラトス。それを不思議そうに見ていたロイドの表情が、変わった。クラトスの背中に(似合わない)青い羽が見えたからだろう。


「クラトス、あんたはんなんだよ!?っ…シエル!!はっきり言えよ!」

ものを知らないこと。それより怖いことはない。一番それを知っているのは、彼だ。その言葉がかつてに自分が言った言葉に似ていた。それでも、苦い物を噛み殺したような表情で、ローレライの剣を構えるだけだった。



「…クラトスは、世界を導く最高機関、クルシスに属する者。再生の神子を監視するために差し向けられた四大天使、…間違ってたかしら」
「姉さんっ…」


私がシエルと並びながらそう答えた。ロイドはそんな私たちとクラトスを交互に見ていた。まだ、よく理解は出来てないのだろう。剣ではなく音叉を手にした私を、やっぱりシエルは制す。それは分かっていたことだけれど、今だけは引けない。


「あたしたちを騙してたのか?!」
「騙すとは?神子がマーテルと同化出来ればマーテルは目覚め、世界は救われる。それに不満があるのか?」

しいなの声に淡々と答えるクラトスに憤りを感じた。彼が、何を望みこうするのかが分からない。一体、何をどうするつもりなんだろうか。


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